『無銘共通作家 みんなで小説☆企画』の原稿データ前半。このページは2014/2/21更新

---失われた原稿---
2:謎の紳士(天野大輔)
4:イライラの原因(響姫)
6:狂気(形歪)
17:ケンジの心の中(響姫)



---復元できた原稿---
■記号の前の数字は執筆当時の章番号
■記号の後のテキストは章タイトル
次の行から章の本文、本文中の改行(複数で空行)はオリジナル原稿のママ
バックアップ時期の前後により各原稿は最終版ではない可能性あり
一部はGoogle Cacheから手作業で復元のため作業ミスの可能性あり



0:■はじまり(菊乃あや)
ここは
個性あふれた
いろんな人たちが
集う国
“mumei”

あっちでは
意味ありげな恋愛
こっちでは
剣をもった勇者

そこかしこに
たくさんのドラマがあります


そんなmumeiに
あるひとりの女性がいました


「ふう……
つかれたわ
なんなのよこの国」


どうやら彼女は
怒っているようです

それはそうでしょう
なぜなら彼女は
ここに入国する前
ひどい目にあっていたのですから


たとえば

ベレー帽をかぶった女が
いきなり
「おめぇおれに絵たのめよぉ」
とからんできたり

すれ違った青年が
いきなり自分に
野球ボールをまっすぐストレートで投げてきたり


女性は
これからもこんなことが起こるのでは
と
不安を隠せずにいました


そして
大きくため息をつきました



1:■セレブの街(弐ちゃんねらー)
女性は mumei の国を散策していました。

しばらく歩くと、巨大な塔のような建物が見えてきました。

超高層タワーマンション…

パークレジェンド・ヒイラギでした。

「うわあ、すごいマンション!

てっぺんが雲に隠れて見えないわ。」

よく見ると、この辺りには豪華なお屋敷が建ち並んでいます。

白亜の豪邸、響姫邸…

洗練されたデザイナーズ建築の慈雨邸…

敷地面積5000坪を誇る、ともゆ邸…

広々とした日本庭園が美しい天野邸…

「すごーい!ここは、この国で成功を収めた人達の居住区なのね!?」

女性は目をパチクリさせながら、セレブの街を見回しました。

「私もいつか、こんな街に住んでみたいなー。」

夢を膨らませながら歩いていると…

「あら?…何かしら?…この家。」

街外れに殺伐とした雰囲気の家が一軒建っていました。

債権者からの督促状がポストにあふれ、玄関ドアには『金返せ!』『人間のクズ!』と張り紙がされ、塀には赤いスプレーで『殺』と書き殴られています。

その家には『弐ちゃんねらー』という表札が掲げられていました。

「恐い国ねぇ…」

女性は他人事のように呟くと、さらに歩き続けました…。



3:■怪しいケンジ(ナン)
「あ………や?」

紳士の顔がこわばる。そして興奮ぎみにアヤに訪ねた。

「もしかしてあなたのお父様の名前、ダイスケではないですか…?」

「No.it is not. 」

「そう………ですか」

急に肩を落とすケンジ。そのやるせなさといったら…

「あの、さっさと国王に会わせてくれるかしら?」

イライラして爪を噛むアヤ。そうとうピリピリしているようだ。

「あ、はい…分かりました」

こうしてアヤはケンジに案内され国王の元へ向かうのであった。

(アヤ…まさかとは思うが、この娘が『神のペン』の秘密を…)



5:■高級レストラン(ヒイラギ)
暫く歩くと、

2人はある立派な店の前に辿り着きました。




「ここは?」




アヤが尋ねると、




「ここは この国で一番美味しいと評判の店なんですよ」




微笑しながら、

ケンジが答えました。





すると、

アヤは目を輝かせました。





「(‥高級レストランだわ‥)」

「ひとまず入りましょうか」





ケンジに頷いて、

アヤはレストランに入りました。




「わぁ──‥」




きらびやかなシャンデリア、

壁に飾られた綺麗な絵画。




「素敵なレストランね」




アヤが、

嬉しそうにいいました。





席に着くと、




「何でも好きな物を頼んで下さい」




ケンジにそう言われて、


アヤはメニューを広げました。



7:■神のペン(弐ちゃんねらー)
二人はぶ厚いステーキをナイフで千切っては、黙々と口に運んでいた…。


この国で生き抜くことの難しさを噛みしめながら…。



「あの…」

いたたまれない沈黙を破りアヤが口を開く…。


「さっき、身分を偽り生き伸びる者もいるって仰りましたよね…?」

「はい…それが何か?」

「失礼ですけど…それは、もしかして貴方のことではありませんか?」

「…。」

ケンジは暫く黙った後、溜め息混じりに語り始めた。

「文才無き者は、この国では生きてゆけません…。

私にはそれが無かったのですよ。」

寂しそうな目で窓の外を見つめる。

視線の先にはパークレジェンド・ヒイラギがそびえ建っていた…。


「そうだったの…」

アヤは同情めいた眼差しを送った。




すると…


「ただし!」

ケンジは突然叫ぶと身を乗り出した!

「私のように才能に恵まれない者でも成功を掴む方法が、たった一つだけあるのです!

私はそれを探し求めてきました!」


「そ…それは…何…?」

気押され気味のアヤの目前に人差し指をたて、ケンジは唸るように告げた…。



「古より伝わる魔法のアイテム…





…“神のペン”です。」



8:■使命を指名(天野大輔)
「…神のペン?」


「えぇ…この国の民なら誰もが知っています…。ただし、有名な童話としてね…」


ケンジは謎掛けでもしているかのように、アヤに語りかけている。


「しかし…神のペンは実在する」


「…どうして言い切れるのよ?」


「無ければ…私は、この店の料理になってしまいますからね。信じないと生きていけません」


冗談なのか本当なのか
わからない表情で微笑む


「私は敗者です。ですが 命を失った者達との差は
知恵を使ったかどうかです…」


口元の油をハンカチで拭き取り、あくまで紳士として振る舞うケンジ。


「…色々と生き延びる方法はあるのですが、私は神のペンに関する情報をかき集め、国王に提出することで生き延びました。まぁ多少、水増ししましたけどね」


「結局、何が言いたいのよ。何故、私を王に会わせたいの?」


「私のパートナーになって頂きたい。王に会わせるのは『神のペン』を共に探す許可を頂くためです」


「なんで私なのよ」


「貴女には、人を魅了するなにかがある…。現に私が引き付けられたように…」


「(どうしよう…でも何か手掛かりが掴めるかもね…)」



「それと、私、お金を持っていないので、ここから城まで走りますよ」


「…食い逃げするの?」



9:■迎え(響姫)
「その必要は無いよ。俺が(正確には国王が)払ったから」

「…え?」


アヤが顔を上げると、茶髪のイケメンがウインクした。


「右近(うこん)? 門番の君が何故ここに?」

「お前がいつもの時間に来ないから、迎えに行けって国王様に言われたんだよ」

「それは悪かった。彼女も連れて行きたいんだが」

「いいよ。俺好みの子だし。特別に陸(りく)に乗せてやる」

「陸?」

「俺のペット」


首を傾げるアヤをエスコートし、右近はレストランの外に出た。


ケンジもそれに続いた。


そして、右近が珍しい茶色の柄と緑の刃の剣を取り出すと


「うわ…」


剣は、一瞬で巨大な茶色の狼に変わった。


その瞳は、緑色だった。


「ほら、乗って。ケンジも適当に掴まれよ」


そして三人は、陸に乗り、あっという間に城門にたどり着いた。


「左近(さこん)、仕事だ」

「…」


右近と双子の黒髪長髪の左近は、無言で立ち上がり、右近と二人で門を開けた。


「さぁ、国王様がお待ちかねだよ」

「… …入れ」


双子の門番に促され、ケンジとアヤは城の中に入っていった。



10:■ちょいちょいちょい!(ナン)
城内に入ったアヤは


その途方もない広さに開いた口が塞がらなかった。


向こう側が見えず地平線のように平らになっていた。


「驚きましたか?城の端から端は100kmくらいあるんですよ」


それを聞いたアヤは、マジかいや!ってな気持ちになり


なぜか気が遠くなった。


フラリと足元が崩れ、倒れ


…そうになったところを誰かに抱きかかえられた。


「あ、ありがとう…」


アヤを抱きかかえたのは………



11:■案内(ヒイラギ)
‥‥‥黒髪黒眼の、

服装も黒ずくめという出で立ちをした、

見知らぬ男だった。





「お怪我はありませんか?」

「ぇ、はい‥」




アヤは男に横抱きにされたまま、

小さく頷いた。





ニコッ、

と笑った男の口から、

僅かに鋭くて尖った牙が覗いている事に気付き、

アヤは一瞬ビクッとした。





男はゆっくりとアヤを床に降ろすと、

言った。






「申し遅れました──私はこの城の傭兵をしている者で──リュートと申します。お2人は国王様に会われる為に来られたのですよね?」

「ええ‥」

「(──? この方は‥もしや‥)」

「あの‥?」

「ご案内致します。私に付いて来て下さい」





そう言われて2人が付いて行くと、

エレベーターの前に出た。





「──さぁ、どうぞ」



12:■エレガ(弐ちゃんねらー)
――… チーン …。


ベルの音とともにエレベーターの扉が開く。



すると中から栗色のおさげ髪をした可憐な少女が現れた。



少女は『DE∀TH NΘTE』とタイトルが記された、黒いノートを小脇に抱え…


その大きく潤んだ瞳は、血のように赤い色をおびている…。



それは“死神の眼”だけが持つ妖しい輝きだった。




「上へまいりま〜す。」


その少女はエレベーターガールだった。



二人がエレベーターに乗り込むと、扉は音もなく閉ざされる。



そして次の瞬間…!



シュゴオオオオオオォォッ!!!


エレベーターは、物凄い勢いで上昇を始めた!


まるでロケットが発射されたような、凄まじい加速Gが二人を襲った!


「キャー!!」


アヤ達は立っていることもできず、床に履いつくばった!



やがて…


――… チーン …。


「キャ!」「うわっ!」ドスン!



突然エレベーターが停止すると、今度は天井に叩きつけられた!



「16842階……王の間でございま〜す。」



エレベーターガール…

…Shizuka は、にこやかに右手を挙げて案内した。



開かれた扉の向こうには…………



13:■そこには……(菊乃あや)
「ダイ……スケ」




アヤはひどくおどろきました

なぜならそこには
自分の実父のダイスケが
いたのですから




「ひさしぶりだなぁ
アヤ」

「なぜあなたがここに……」




まさか
ダイスケが国王だったの?


アヤがそう思った瞬間──




「おまえはだれだ!
曲者め!」




ケンジが叫びました




「あ、すいません
すぐ帰りまーす」




ダイスケは言うと
床に横たわっている男を
脇にかかえ

ダイスケ
いっきまーす

と走りさりました


数秒間の沈黙


ケンジはハッとして

「こ
国王ぉー!」

と叫びながら
ダイスケのあとを走っていきました




(え?
今さっき倒れていた人が
国王……?)




ふりむき
脇にかかえられている男の顔を
もう一度じっくりみると


どーでもいーやー


というような
生気のない表情をした
国王がいるのでした




「……あれ?
ていうか
ケンジはダイスケのことを知っていたんじゃないの?」



14:■謎謎(ナン)
訳がわからなくなってきた。

国王に会いに来れば、あいつが現れ、そして去った。

何が目的なの?

それよりも、なぜここにいるの?

そもそもどうして………

「生きて…いるの!?」

私は理解不能に陥り、ガリガリと腕を掻き毟った。

皮膚が引き裂かれ、ジワリと血が流れる。

その赤が私の思考から正気を奪っていく。



15:■炎と血の紅(天野大輔)
景色が歪む

己の中に眠る憎悪が
脳を支配し、体の自由と思考を奪ってゆく



なにをするでもなく
流れる血を見つめ
炎の赤と比べてみる


血の方が綺麗だ



…炎!?

なにかが燃やされている



憎悪の鎖を
断ち切るのは本能

着ていた上着を脱ぎ
炎に叩きつけ
衝動的に消火にかかる



燃えていたのは
束ねられた書類…


ほとんど灰になって
読む事などできない…


かろうじて読めた文章は


『神のペンにつ●て』
『弐●●●ねらー』
『存●を確認』
『敵の名は●●』


ケンジの報告書だ


これを燃やしていくという事は、ダイスケも関係しているのか…


アヤは自分の目的と
ケンジの目的に共通点を見つけ、旅に出る決意を固めた…



16:■自分で(ヒイラギ)
アヤは早速、

旅仕度を始めた。





だが、

ふと思う。





「(何を持って行けばいいかしら‥?)」





長旅になるのなら、

ある程度必要な物を揃えておく必要がある──

そうアヤは思った。





──ふと彼女が傍らを見ると、

ケンジが何やら考え込んでいた。





アヤは、

ケンジの横顔を見つめながら思う。




「(あの書類が燃やされたりしなければ──)」





そう思っても、

燃えてしまった物は仕方がない。





自分で解き明かすしかないのだと、

アヤは心の中で呟いた。



18:■旅立ち(ヒイラギ)
──出発の時が迫ってきた。





アヤは、

ケンジに言われた通り、

最低限の荷物──

水と

僅かな食料をリュックに入れて担いでいた。





彼女は、

停滞先で働く可能性もある、

とケンジが言っていた事が、

少し気掛かりだった。





「(‥情報を得る為って言っていたけど‥)」





目的は、

恐らくそれだけではないのだろうとアヤは思った。





「支度は出来ましたか?」

「ぁ‥はい」





アヤは、

この先の旅路の事を思うといくらか不安だった。





だがそれでも、

進むしかないのだ。





「まずはどこへ‥?」

「大きな町があります。そこを目指しましょう。──ただ、少し時間がかかりますがね──」

「どれ位?」

「3日程」

「そんなに!?」





気が遠くなりそうだ、

とアヤは思う。





「ですが、心配は無用です」

「ぇ?」

「駅から汽車が出ています。それに乗れば半日で辿り着けますよ」

「でも、料金はどうするの?」

「簡単な事です」

「?」

 ・・・・・・・・
「中に乗らなければいいのです」



19:■突然の再会(弐ちゃんねらー)
ガタンガタンッ!ガタンガタンッ!

アヤ「そういうことーーー!!!?」

ケンジ「えー!? なんですかー!? よく聞こえませーん!!」

数刻後、二人は汽車の連結部分にしがみついていた。

足元には爪先しか乗らないステップがあるだけ…

その下には鉄のレールが物凄い勢いで後方に流れてゆく…。

勿論、踏み外せば命はない!


過酷な旅になることは覚悟してきたつもりだったが、アヤは早くも後悔しはじめていた…。




その時…

女の声「ケンジ…相変わらず、面白過ぎる生き様だねぇ?」

二人の頭上から、女性の声がした。

アヤ「誰!?」

ケンジ「その声は!? どわーッ!!」

ケンジは驚いてステップから足を踏み外し、腕一本で命を繋ぎとめた!


見ると車両の屋根から、美しくも強そうな女性が、ひょっこり顔を出して見下ろしていた。

ケンジは、女性の正体を確かめるや、裏返った声でその名を呼んだ。

ケンジ「み! 水樹姐さん!?」

アヤ「ね・ね・ね・ねえさん!?」

アヤは二人の顔を交互に見やりながら、驚くしかなかった。


水樹「ま…とにかく屋根のほうが安全だから、こっちにいらっしゃい。」

水樹は、腕を伸ばして二人を屋根に引き上げた。



20:■伝説の女性(響姫)
改めて見ると、その女性


『水樹姐さん』はとても美しく


とても不思議な格好をしていた。


「着物を見るのは初めて?」

「え? は、はい」

「日本国という小さな島国の民族衣装なの。綺麗でしょう?」


水樹は着物を見せ付けるように優雅にクルリと回った。


その動きに、アヤは一瞬ここが汽車の屋根の上という事を忘れて見とれていた。


「フフ、可愛いわねアヤさんは」

「え!? どうして私の名前を?」


アヤは目を丸くした。


もしかしたら、ケンジが言ったのかもとケンジを見たが


ケンジは首を横に振った。


「これに、見覚えは?」

「…あ!」


水樹がアヤに見せたのは、見覚えのあるベレー帽だった。


更に


「『おめぇおれに絵たのめよぉ』」


そう言った水樹の声と口調は、確かにこの国に入国する前に、アヤに絡んできた女と同じだった。


「でも、顔が違う…」


呆然とするアヤに、出番の無かったケンジが説明した。


「水樹姐さんは、変装の達人で、情報屋。絵と小説の才能もある、この国の誰もが憧れる伝説の女性で、私の師匠です」


ーと。



21:■情報と真実(天野大輔)
「…そ、そんな凄い人がなんで汽車の屋根なんかにいるのよッ!」


当然の疑問である


「ここは私の特等席なの…無料のね…」


「…相変わらずで安心しました。それより姐さん…。例の情報は入ってきていますか?」


「何の?」


「わかっているでしょうとぼけないで下さい…」


「私はね…。アンタに情報は二度と売らない事に決めてるの…」


「!?」


「…アンタ…私のあげた情報を国王に渡したでしょう?」


懐から綺麗な扇子を取り出し、ケンジの顔を扇ぐ


「うッ!」



「苦労したのよ?あの情報…。他言無用って言ったわよね?それをあっさり渡してくれちゃってさぁ…」


「まさか…」


アヤの頭に
一瞬で答えが浮かんだ


「神のペン…」


「あら?アヤちゃん鋭いわね…。そうよ、神のペンについての情報…」


ケンジが
小さくなっている


「…でも、困ってるみたいだから売ってあげるわ…ただし、アヤちゃんにね♪。国王誘拐事件でよかったわよね?」


優しい笑顔を浮かべた



22:■情報料(響姫)
「「ありがとうございます」」

「あんたは情報料払えないでしょ。…消えなさい」


バキッ!


水樹の華麗な蹴りがケンジにヒットした。


「うわぁ〜!!」


吹っ飛ぶケンジ


「キャー、ケンジ!」


ケンジを掴もうとしたアヤの手は


…届かなかった。


「ケンジ…

今まで、ありがとう…」

「勝手に殺さないで下さ〜い! まだ活躍してないんですから!」

「…チッ」

「姐さんも本気で舌打ちしない!」


ケンジは連結部分にしがみつき、一命を取り止めていた。


「上がってきたら、…わかってるわね?」

「わわわわわかってますよ〜!!」


ケンジは必死で何度も頷いた。


こ、怖い!


アヤは水樹を怒らせてはいけないと、心に刻んだ。


「大丈夫よアヤちゃん。情報に見合う物があればいいんだから」

「わ、私、何もありません…」


アヤの手持ちの金は少なく、高価な持ち物も無かった。


「物で無くてもいいのよ。例えば…あなた自身の情報とか」

「わ、私の?」

「そう。 国王の行方が知りたいなら、私の質問に一つだけ答えてくれない?」


水樹の笑顔は相変わらず優しげなままだった。



23:■フラッシュバック(菊乃あや)
水樹の漆黒の瞳が
アヤを見つめます


その笑顔はどこか儚げで
でも、崩れることのない芯が
そこには通っていました




「質問、いいかしら」


綺麗な唇が
形を変えて動いたのを見て
我に帰ったアヤは
慌てて
「はい!」
と叫びました


「そう……じゃあひとつだけ」


不意に水樹はアヤの目の前に立ち

アヤの頭に手を触れて
言いました


「あなたの髪は、どんな魔法がかけられているの?」




その瞬間
アヤはものすごい早さで
水樹の手を振り払いました


その後、自分の長い髪を
顎の下でひとつにまとめ
まるで守るかのように
両手で握っています




「やっぱりね……」




水樹は言いました


「あなたの髪の毛こそが、『神のペン』だったのね」




ケンジは顔を真っ青にしました



24:■真っ青
真っ青な顔のケンジ。

体は震え 視界はぼやけ色を失う。

聴力も奪われ 口からは何も発せられない。

(あ…あああ…うご、けな…)

そして思考は止まった。考えることすら許されない。

ケンジはその場で石と化した。



25:■ちょっと!(大花)
「ふふ」
水樹が笑う。ケンジは固まったまま。それよりも……………
「私の髪が…神のペン?」
「その髪は魔法…………封印魔法がかけられている。」
「ペンって書くペンじゃなく!?」
「そうよ…」
「どうりで魔力が少しあるなと思った。」
ケンジが言う。
「冗談!あんた魔力感じられないのにあたしが感じるって言ったら…………やっぱり自分もって……………」
「え?」
「だーかーら!あんた(ケンジ)が嘘言うんじゃないかって!実験!」
「……………………」
ケンジの顔が真っ赤に染まっていく。車両の所だから逃げ場がない。
「じゃあアヤの髪が神のペンっていうのが…………」
「嘘よ?」
「………………」



26:■秘密(佐野 レイ)
「けど、あなた、神のペンについて何か知っているわね?」
水樹はまっすぐにアヤをみる。
「・・・何も、知らないです」
「そう。なら、力ずくで教えてもらおうかしら?」
水樹の手には拳銃が握られていた。
その銃口が、アヤへと向けられる。



27:■危機一髪(大花)
「姐さん!」
私は怖くなった。拳銃が向けられてるのだから。
ケンジは私をかばうように前に立つ。
「彼女は大切な人だ。殺される訳にはいかない」
「あなた………私に刃向かうの?」
水樹はまだ拳銃を握っている。とそこに
「情報手に入った?」

向こうから男が現れる。
「修海さん…」
水樹が呟く。
「手に入ったか聞いてんの」
「まだです」
「知らなさそうなら殺して結構。」
「わかりました」
水樹はこっちを向き撃った。


弾はケンジの肩に当たった。
「うっ!」
「ケンジ!大丈夫!?」

「いまはもういいや」
水樹が拳銃をなおし修海の方を向く。
「生きましょう」
「あと五分くらいで駅に泊まる。それまで…………」
こしょこしょ話のように水樹に話し、
「わかった」



28:■情報共有者(小日向)
二人の会話は鼓動が邪魔をして、全く耳に届かなかった。

神のペン。

そこまで辿り着いた者はかつていないとされ、例によって一般の人は童話としてしか知り得ない神のペン。

その情報を私が持っていると、水樹は何故知っていた?

情報屋だから、と言ってしまえばそれまでだが、それ以外にも何かがある筈だ。

私が所持する情報を、唯一共有している人物と繋がりがあるとか。

「………っ…。」

爪を咬む事を止められず、ただただ憎悪が胸を埋め早く駅に着け、そう願った。

そんな闇で視界が埋まっていると、目の前のケンジが私の顔を静かに覗きこんでいるのにやや遅れて気がついた。

目を丸くしたであろう私の口許を指差し、儚げに笑みを浮かべた。

その笑みは、出会った頃とは似ても似つかない。


「注意は二回目ですよ。」


ケンジはその他に何も問わず、見えてきた駅を見つめ返した。

聞かないのね、何も。

そう心で呟き、これからの事を整理する。

先ずは見つける事だ。

私の情報共有者(ブレス)である、死んだと思っていたあの男。

ダイスケに。