《MUMEI》

オバサンは全身黒ずくめのワンピース姿で

腰まで伸びた真っ黒な髪は、さながらリングに出てくる貞子みたいだった

手には金属製の短い棒のような物を握っていた

楽器のトライアングルを叩く棒みたいなのを想像すると丁度いい

オバサンはその棒で、電車の吊革や網棚、ドアやパイプ柱など

あらゆる場所をキンコンカンコン叩きながら歩いてたんだ…

ブツブツ…ブツブツ…ブツブツ…ブツブツ…

キンコン!カンコン!キンコン!カンコン!

俺の前を通りすぎたのは、ほんの一瞬だったので

最初は訳がわからなかった

なんだ?あの人…

俺は唖然としながら遠ざかってゆくオバサンの後ろ姿を眺めてた

オバサンは車両の連結部のドアを開けて、隣の車両へと歩いていった

変なオバサン…

俺は特に気にもとめず、再び眠気との格闘に戻った

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