《MUMEI》

食べてもいいか、と鳥谷の様子を窺う様に顔を見上げてくる小鴨へ
鳥谷は肩を揺らして見せ、小鴨の手を取るとその店へ
「何にする?」
甘いスイーツ系からおかず系まで、様々あるメニューの中から選んでいく
小鴨は色々と目移りしながら
「チョコと、生クリームがいいです」
甘さ×甘さの相乗効果
良くもここまで甘いものばかり食べられるものだと感心してやりながら
鳥谷はベーコンとレタスのおかず系のクレープを頼むことに
「鳥谷君のは、甘くないんですね」
甘過ぎはしないかと心配してしまいそうな程のソレを頬張りながら、小鴨は鳥谷のソレを見やる
まじまじと眺めてくる小鴨へ
「……一口、食べるか?」
差し出してやる
小鴨は解りやすいほど嬉しそうな顔をして見せるとそのまま頷き
鳥谷の持っているそれを一口
その様は親ガモから餌をもらっている雛鳥の様で
まさに子ガモの様だと、鳥谷は僅かに肩を揺らしてしまう
「鳥谷君?」
何を笑っているのか
解らない様子の小鴨は鳥谷の顔を覗き込もうと爪先立った
どうかしたのかを問われ
だが鳥谷は詳しく語る事はせず首を横へ
振ってみせながら、小鴨の口の端へと徐に指先を伸ばす
「ドレッシング、付いてた」
拭ってやり、その指先を無意識にだが舐めてしまえば、小鴨は顔面真っ赤で
以前自分だってやっていたことなのに
その照れっぷりに、だがその事を突っ込んでやる事はあえてしなかった
それから互いにクレープを完食し、のんびりと帰路に着く
暫く歩き進めた後
「処で、鳥谷君」
小鴨が徐に鳥谷の袖を引く
何かと小鴨へと向いて直ってみれば
「大学祭って、いつあるんですか?」
「ん?」
小鴨からのソレに、そういえばと鳥谷考え始めた
だが思い出せず、何とか思い出そうと更に考え込んで居ると
「今月末の土日」
鳥谷らの背後から声が聞こえてくる
二人同時にそちらへと向き直ればソコに
どうかしたのか小林が立っていた
何をしているのかをつい問うてやれば問うてやれば、夕飯の買い物だとの返答
その最中に鳥谷らを見つけ、つい突っ込まずにはいられなくなったらしい
「しっかりしろよ、鳥谷。只でさえ恋人がうっかりしてんだから」
それだけを伝え、小林は後ろ手に手を振ると、そのまま歩いて行ってしまった
その背を暫く眺めた後、さて自分達も帰ろうかと鳥谷が歩き出そうとすれば
何故か小鴨が俯いていて
顔を覗き込んでやれば、その顔は真っ赤になっていた
「どうした?熱でもあんのか?」
額へと手を触れさせてやれば、小鴨は慌てて首を横へ
大丈夫だからといいながらもまた顔を伏せ
「……ちょっと、照れました」
「は?」
何に照れたというのか
解らずつい聞き返してやれば、小鴨は伏せた顔をそのままに
「……内緒、です」
と一言
理由は気になりはしたのだが
益々赤く、顔を伏せてしまう小鴨へソレを聞くのも可哀想だと
鳥谷はそれ以上は聞かずにおくことに
「帰るか」
小鴨の手を取ると、鳥谷は改めて歩き始める
手を引いてやってもやはり歩幅が違う所為か数歩後ろを歩く小鴨
鳥谷は肩を揺らすと、僅かに歩幅を縮めていた
「……鳥谷君」
「後ろ歩いてて、居なくなられても困るからな」
冗談ではなく小鴨は本当にいなくなってしまいそうだと
鳥谷はまた肩を揺らす
「……そんな事、無いと、思います」
言いながらも小鴨は自信なさげで
丁度その時、前を通りかかった店のガラス戸に二人の姿が映る
手を引かれ、歩く自分
本当に親ガモの後を付いて歩く小ガモの様だと
小鴨は、顔をまた伏せてしまった
「今、何考えてる?」
「え?」
つい聞き返せば、鳥谷は脚を止め、小鴨の顔を覗き込む
「何か、単純な事変に難しく考えてるだろ。お前」
顔に出てる、と額を指先で小突いてれやれば
小鴨はハッとし、顔を両の手で覆ってしまった
「あんま考え込むなよ。ハゲるぞ」
「ハ、ハゲちゃうんですか!?」
「その内にな。頭の天辺、丸いハゲが出来るかも」
「そ、それは嫌です!」
どうしようと悩み始めてしまう小鴨
ソコまで悩む事もないだろうに
真剣な面持ちでどうしたものかを考え込む小鴨へ
鳥谷は肩を揺らすと
「まぁ、まだ禿げてはねぇから。安心しろ、な」

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