《MUMEI》

一閃。

「セィァア!」

辺りにこれでもかと言う程に在った肌に突き刺さる様な魔物の気配がやっとの事で消えた。

流石に砂漠ステージでは汗も吹き出て止まらない。手の甲で何度拭っても額が濡れるのでもう諦めたいのだが、習慣と言うものは怖いもので自然と拭ってしまう。

しかしそれは私だけでは無いようで、背後で砂に尻餅をつく音が聞こえてきた。

「ハルの最後のやつ大きかったね。」

「そうだった?一瞬しか見ないから判らなかったわ。」

「格好いいね。」

「嬉しくない。」

剣士の私でこれだけ疲れているのだから、アカネはどれだけ疲れているのか想像も出来ない。

造成魔導師が表面的に消費するのはマナポイントだが、実際のところ、マナポイントがゼロになることは先ず無いと言って良い。

上限は装備やアイテムでいくらでも伸びるからである。

問題というか、欠点は其処にはない。

現在のMHOは現実世界の自身の身体と指して変わらない為に、魔法を使う職業は向いていない人が多い。

この世界の魔法と言うのは、書物や巻物から得た魔法という情報をアバターに記録し、それを呼び起こし視覚的に引き起こすことだ。

つまり、アバターに記録させても呼び出せなければ意味が無い。その魔法の名を自身に染み込ませ、何時でも呼べる様にしなければならない。

今日の闘いぶりを横目で観戦させて貰ったところ、アカネは軽く二十から三十位は我が物にしている風に窺える。

相当な努力を費やしたろう。

「…何よ、そんなジロジロ見て。もしかして、オレンジ、飲みたいの?」

「………頂こうかな。」

つくづく、人は見掛けに由らないと思い知らされるな、と感じ苦笑した。

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