《MUMEI》 耐える。「……へえ、ずいぶんふざけたこと言ってんな。ここから出してやる、なんてよ」 唯一の扉から現れたのは、品川だった。 「不可能だがな」 俺の言葉をバッサリと切り捨てる。 「俺はもう油断しねえ。逃げようってんなら本気で相手してやる。……まぁ、そんな体で逃げられるもんならな」 俺の体はボロボロだ。左手は自由に動かないし、呼吸をするだけで胸が痛む。あばら骨も折れているかもしれない。 何も言うことはできなかった。 だが、全力で品川を睨む。 諦めてたまるか。 ミクちゃんを助け出す。 それに命を懸けても、構わない。 むしろ、自ら懸けてやる。 品川を……蹴散らす。 「まだ諦めねえって目だな。嫌いじゃねえぜ、諦めの悪い奴はよ」 徐々に近付いてきた品川は、俺の髪を掴むと、空いている右拳を振るう。 「うぐっ」 痛めつけられる。 耐える。 ただの痛みだ。 耐えられる。 俺が今、《僕人格》のためにできることは、これくらいしかない。 ここで耐えることは、必ず打開に繋がるはずだからーーー……。 前へ |次へ |
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