《MUMEI》

扉を静かに閉める。
誰もいないことはわかるんだけれど。なんとなく。




「抱きしめていい?」
七生が距離を取らずに近付いてきた。


「…………ん」
上手く言えずに口が二、三回開いたり閉じたりする。

背中に腕が回り強く抱きしめられ、ベッドまで倒れ込んだ。



七生の大きく上下する胸部に耳を傾けた。


「夏の遠征のときみたい、相変わらず力任せで、喧嘩しているのに逃げられないよう羽交い締めにされて……。」
その後、七生に朗読して貰った。


「初めてキスしたのもそのとき」


「え!知らないよ!」


「縺れ込んで二人倒れて……事故みたいなもんだったしな。
でも、それがあったから二郎が愛おしいと思うし、こうして二郎と居られる。」
肩に触れてる七生の手に力が入った。


「てっきり夜中酔っ払ってせがまれたのが最初だと思ってた。」


「酔っ払ったって……酒の勢いはあったかもしれないけど、遠征のキスの感覚が忘れられなくて……つい。

今もだけど、馬鹿みたいに二郎に触ってキスしたくなった。

俺の家でのときもね。」



「あれは三回目に入らない!」
暴走して無理にやってきたんだからノーカウントだ。

「四回目は沖縄……、あれは良かった。」
良かった、だなんてよく言えるな……。
確かにあれはやばかった。今まで悩んでたものが唇に吸われては消えるような開放感に満たされた。
自分のやらしさが嫌だ。七生と抱きしめ合うだけで心音が乱れてくる。


ただ触れ合うだけでも十分だと思いたい。


それでも七生を求めて喉が渇く。




七生に与え続けてたいのになにもかも奪いたい自分がいる。矛盾してるのだって知ってる、この場合どっちの俺を信用したらいい?

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