《MUMEI》
響く重低音
「……ここ、最初の場所だ」
ユウゴは走りながら、確認するように左右に並ぶビル群を見回した。
「最初?」
「ああ。このゲームをスタートした場所だ」
初めて死体を見たのも、この場所だった。
 二人が進む道の先に、大爆発を起こしたあのビルが今にも倒れそうに傾いている。
この四日間、どうにか持ちこたえていたようだ。


 足元には、ビルから飛んできたのだろう瓦礫やガラス、そして人間の部位が転がり、ひどく走りにくい。

「ねえ、まさかあそこ、通るの?」
ユキナがその倒れかけたビルの下を指差した。
ちょうどビルの真下とあって、瓦礫が高く積み上がり、山ができている。

ユウゴは後ろを振り返った。
 目茶苦茶に進路を変更しながら来たおかげか、警備隊とは少し距離が開いている。
ユウゴは再び前へ向き、頷きながら言った。
「あれぐらい行けるだろ。上手くすれば、あいつらから逃げれるかも…」
それを聞くと、ユキナも一度後ろを振り返り「そうだね」と頷いた。

 二人は同時に走るスピードを上げると、そのままの勢いで瓦礫の山を駆け登った。
しかし、ユウゴが踏み込んだ足場は脆く崩れ、転倒してしまった。
すぐ後ろでいくつもの弾丸が跳ねる音が聞こえた。

 ユウゴは慌てて起き上がろうとするのだが、焦る気持ちに反して足元が滑って起き上がれない。
警備隊の足音と銃撃音がすぐ近くに迫ってきた。

「くそ!」
 ユウゴは歯を食いしばりながら、山の頂上へと手を延ばす。
その手を向こう側からユキナが力一杯、引っ張った。
 ユウゴは引きずられるように頂上を越え、ユキナ共々転げ落ちてしまった。

 痛みに顔をしかめながらも、二人は無言で立ち上がり、再び逃げ始める。
その時、背後で空気を震わすような重低音が鳴り響いた。

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