《MUMEI》 髪を梳く様に撫でてやった 今時分に小鴨が何を悩んでいるのか、鳥谷には何となく解る様な気がして だがソレについて、どれだけ気にする必要などないと言ってやった処で 小鴨は更に思い悩んでしまいそうだ、と 鳥谷はあえて言い繕う事はせず置くのだが 「……気に、させ過ぎるんだろうな」 そんなつもりは更々なかったのに、と浮かべる苦笑 小鴨が何かと見上げてくるが 鳥谷はやんわりと誤魔化すと、改めて歩き出した 途中、行きつけのスーパーの前を通りかかり 小鴨の脚がそこで不意に止まる 「小鴨?」 どうかしたのか、小鴨の方を向き直ってみれば 買いたいモノがあるのだと、小鴨は鳥谷を引き連れ中へ 一体なにを買うつもりなのだろう カゴを持ち、足早に店内を進んでいく小鴨 取り敢えずはその買い物を見守る事に 「……コレと、コレと、コレ……」 何やら独り言を呟きながらカゴへと入れて行くが 見ればそれはすべて酒 「お、おい、小鴨。お前、それ……」 「お酒です」 「そんなもんは見れば分かる。それ、どうするつもりだ?」 「飲みます!」 行き成りの宣言 お互いに二十歳を超えて居るので飲酒自体に問題はない 問題があるとすれば 「お前、酒駄目だろうが!」 そう、小鴨の酒の弱さだ ソレを指摘してやるのだが一体何の自棄か 止めに入る鳥谷の声に耳も貸さず、結局小鴨はその酒を全て購入してしまっていた 「……ヤケ酒、です」 「何のヤケ酒だ!?」 「ナイショです!」 その実小鴨自身、何尾自棄か解らなくなっており 兎に角飲んで、このもやもやととした何かをすっきりさせてしまおうと足早に帰路を歩く その勢いのまま、取り敢えずは鳥谷宅へ夜帰宅した二人 お邪魔しますと挨拶は律儀に、小鴨も入れば 床一面に酒を広げ、そして飲み始めてしまった 「……お前、大丈夫か?」 余りよくはないだろうその飲み方につい止めてしまえば 早々に一本目を飲み切ってしまった小鴨が鳥谷を見やる 暫くそのまま対峙していた二人だったが不意に 小鴨の目に涙が滲み始めた 「なっ――!?」 行き成りのソレに鳥谷は当然驚いてしまい だが一度零れ出した涙は更に溢れ、止まる気配はなかった 「お前、今日本当にどうした?」 酒の所為というのも当然あるのだろうが、明らかに様子がおかしい小鴨 本当にどうしてしまったのだろうと、頬を伝う涙を拭ってやりながら問うてやるのだが 小鴨は子供の様に嫌々をするばかりだ 「小鴨」 頬に手を添え、顔を上げさせてやれば 肩をしゃくり上げながら、何とか話す事を始める 「……私、いつも、鳥谷君に、手、引いてもらって、ばかりで、本当の子ガモ、みたいで……」 「はぁ?」 「私、だって、鳥谷君と、並んで、歩きたい。ちゃんと、一緒に――」 その後はもう、言葉にはならなかった 花をすすり上げる小鴨に、最初こそ驚いていた鳥谷だったが すぐに肩をフッと揺らして見せる 並んで歩きたい たったそれだけの事で涙してくれるほどに自分を想ってくれているのだと知れば 嬉しく思わない男など余りいないだろう 「ごめんな。小鴨」 「とり、たに君?」 「お前がそんな風に考えてくれてるって、俺気付かなくて」 ごめん、と改めて謝ってやれば小鴨は首を緩々と横へ 「鳥、谷君は、何も、悪く、無いです。私が――」 「お前がそうやってベソかいてる時点で俺が悪いの。本当、ごめんな」 「鳥谷君……」 「兎に角、お前飲み過ぎ。今日はもう寝ろ」 小鴨から酒を取り上げ、鳥谷は小鴨をベッドへと押しやる 布団を頭から被せてやり、トントンと宥める様に叩いてやれば 涙に鼻を啜る音も段々と聞こえなくなり 様子を窺う様に布団を僅か捲ってみれば すっかり、寝入っていた 一体どれくらいの間、一人でぐるぐると考え込んでいたのだろう 「……言ってくれても、全然いいのに」 兎に角控えめ過ぎる もう少し、思う事を言ってくれても構わないのに、と 鳥谷は苦笑に肩を揺らすと 部屋中に散らかってしまった酒の缶を片付け始めたのだった…… 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |