《MUMEI》

「何か、話す声、聞こえた気がしたから」
だから少し気になったのだと、未だ夢現で田所は問う
話して、やるべきなのだろうか
その実を全て知っていた方がいいのではと、岩合は思いもしたが
「……なんでもない。気にするな」
誤魔化すように返してやる
田所はその返答を聞き、ふにゃり表情を緩ませると
「……そか」
ならもう少し寝る、と改めて布団を被った
そう、隆弘の胸の内など知る必要はない
田所を隆弘にくれてやるつもりなど更々ないのだから、と
岩合は田所の髪をゆるり梳き始める
未だに、田所との距離感が解らない
もう一度、この身体を最後まで抱いてみれば分かるのだろうか?
そんな事を自問してしまいながら岩合は苦笑を浮かべた、その直後
岩合の携帯が着信に震える
一体誰かと出てみれば
『千尋坊ちゃま。夜分に申し訳ございません』
電話相手は、チズ
どうかしたのかと話の続きを促してやれば
また実家の方に来ては貰えないかとの申し出
「……また、爺さんか?」
大方そうではなかろうかと問うてみれば案の条
バツが悪そうに口籠るチズに
岩合は溜息をつきながら、何時が良いのかを問うてやった
『できれば、明日』
「……今日行ったばかりだろ」
何故、今日用事を済ませなかったのかと続けてやれば
電話越しでも頭を下げているのだろう、申し訳ありませんのチズの声が返る
此処でチズをせめても仕方がない
岩合は深い溜息をつくと、仕方なく分かったを返していた
「俺だけでいいのか?それともアイツも?」
『お二人でとのお申し付けで御座い増す
「……解った。明日行くって、じじぃに伝えて置いてくれ」
『畏まりました』
そこで通話が着れる音
また何を企んでいるのやら
やれやれと岩合は肩を落とし、煙草を銜える
また山の様につみあがっていく吸殻
苛々してばかりだ、と吸い始めたばかりのソレをその山でまた揉み消す
明日、何があるのだろう
全くの見当も付かず
岩合は募るばかりの苛立ちに、派手に舌を打つばかりだった……

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