《MUMEI》

相変わらずの外見は目立つ要素の欠片もないスクギと呼ばれる木材で一面出来ている。スクギは何処でも取れる木材で、唯一の取り柄は耐久性が高めなところだろう。

そして、カナが選んだのもそこだけだと思う。あ、あと値段。

カナはそういう奴だ。

「カナ!」

声をかけた途端に、カウンターの横の出入り口から形振り構わず俺の元へ飛び込んで、呆気に取られている内に強く抱き締められていた。

「……カナ…?」

隣にいるサヤは口を開けたまま立ち尽くしている。


「………生きてた……。」


その言葉が耳に届いた瞬間、俺は走馬灯の様に昨日の出来事を思い出していた。

そうだった。

カナにとって、俺が此処にいること自体が奇跡だったんだろう。

「生きてるよ。」

出来るだけ柔らかい声色でそう言い、カナの震える肩に手を置いた。俺の胸に顔を埋めているので見えないが、恐らく、確実に泣いているだろう。

カナは泣き顔を見られたくないのかもしれない。

ここは目を赤く染めていても、慰めない方がいいよな。

「……はぁ。」

それから十秒もしない頃、カナは一度俺の腰に回した手に力を入れてから、ゆっくりと目元を手の甲で拭い、いつもの快活な笑顔を俺に向けた。

「ごめんね!急に。でも、心配してたんだ。ハルは元気?それとも現実に帰った?」

直ぐに通常運転に戻るところがカナらしいというか、流石商人、というか。

「いやMHOに残ったよ。」

「そっか…まぁ、ハルが此処に残るのは妥当よね。」

この表情。

視線が下辺を彷徨い、何処と無く笑顔に重さが掛かった様な感覚。

カナが、俺の知らないハルを思い出している時の表情だ。

ハルは、未だにMHOを始めたきっかけや、現実での話を俺にしてこない。まだまだクエストパートナーとして、欠点が有るってことだろう。

「ショウ兄、銃。」

「あっそうだ。今日は預けといたガンを受け取りに来たんだ。」

サヤに急かされ、本来の目的を思い出す。

「了解。ところで、この子は?」

カナは興味津々が丸分かりの顔でまじまじとサヤを見ている。俺が最初にカナと対面した時と全く同じ感じだ。

「サヤです。カケルの妹です。」

俺も最初これをされて、少し不信感を持ったので仲介をしてやろう、と息を巻いたが人慣れしているサヤには必要がなかったようで、軽くショックだ。

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