《MUMEI》

現場である廃棄街の近くまでくると走らせていたタクシーを停め、代金を払い外へでる。

まだ、入り口だというのに酒やドラッグの香りが混ざり合って甘い異臭となり湊を襲う。
その臭いに目眩を覚えるが、これからの事を考えれば多分、目眩だけでは終わらないだろう。

「よっし!」
頬を叩き、気合いを注入する湊。
禁止テープの前に立つ同僚に警察手帳を見せ、中へと入る。
中は、緊張という糸が至る所に張り巡らされまるで蜘蛛の巣に絡まった虫の気分だった。
そんな空気に呑まれないように湊は顔を引き締め、辺りを見回しながら上司である倉橋を探すのだが、まだ顔合わせも何もしていない湊には不可能だった。諦めて、近くにいた捜査員に聞く事にした。
「あの、此方に倉橋警部はいらっしゃいますか?」
「倉橋は俺だ。お前か?今日から配属された玖珂杜は……」
湊はギョっとして慌てて敬礼する。
「し、失礼しました!倉橋警部とは存じあげずに!本日付で配属になりました玖珂杜 湊です!」
「すまないな。新人のお前まで現金に来いと言ってしまって」
まるで、ゴリラいや、教科書でみたクロマニョン人にそっくりだ。内心、そう思う湊であったが初日から上司との関係を悪くする程の馬鹿ではない。心の奥深くにしまっておくことにした。
「事件の資料には目を通したな?」
「はい。勿論です。 」
「よし。奴は現在B区の何処かにいる。」
そういいB区の書かれた電子地図を向ける。
「人質は?」
湊は倉橋に聞いた。
けれども返事は別の所から帰ってきた。

「いるよ。」

聞き覚えのない声に身構える湊。
その声は、対策拠点として設置されたテントの中からだった。

「うちの優秀なる部員が人質さ。」

瞬間、テントから現れた3人の人影。
3人とも湊より若く、まだ学生といった風貌だが何処か影を秘めている。

中央に立つ彼女は襟足長めの銀髪に中性的な顔立ち。性格を表すかのような緩めのゴスパンク。
右隣に寄り添うように立つ彼は少年のようにも見えるが、幼さは一切無く騎士や執事のように見える程で男の湊からみてもカッコイイと思える。
左隣の彼女は、学生とは思えない程の顔つきに合わせたような凹凸がはっきりとした体つき。それを強調するかのような服装にゆるふわのパーマが余計に彼女を際立たせる。

これの何処が学生だ。
そう思う湊であったが倉橋はそんな湊に気付かずに話しを続ける。

「今回は二手に別れて捜査をスル!紫苑は俺と!藜と日向は玖珂杜に付いていけ!いいか!太田は殺さずに捕えろ!多少の傷はかまわん!ただ怪異にだけは変異させるなら!させたら始末書だからな!以上!」

そう言うと倉橋はゆるふわパーマ、紫苑と共に闇へと溶けて行く。

「んで、僕達はどうする?玖珂杜さん」
残されたゴスパンクがつまらなそうに湊に指示を仰ぐ。
「うっ、そ、それは」初めての現場でまさかの緊急事態だ。湊は必死に研修の頃由を思い出し、こういった場合どうするか考える。
そんな湊を見てゴスパンクが腹を抱える
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!玖珂杜さんって石頭だねぇ!どうせ、研修で学んだ事とかかんがえてたんだろ?駄目だよ、あそこで学んだ事は忘れた方がいい。役になんかたたないよ!」

「現場の事は実際に体験して学ばなきゃ駄目だよ?その為に僕達がいるんだからさ。」

馬鹿にした笑いから一変、ゴスパンクは妖しく笑う。

「あー、そう言えば自己紹介まだだったね?僕は藜でそっちが日向ね。」
「…………宜しくお願いします。」
ペコリと頭を下げるイケメン、日向。

ゴスパンク、藜は簡単に自己紹介を済ますと端末に表示された時間を見て軽く舌打ちをする。
「さぁ、そろそろヤバイし行こうか。僕達にとって此処の空気は毒だ。」そういいマスクを付ける藜と日向。
そして、3人はゆっくりと闇へと入る。

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