《MUMEI》
第二夜 悪い噂
放課後の部室で携帯端末を取り出す。前触れもなく部屋の扉が開いて、振り向くと、同じ部活で同じクラスの同級生の元彼女が立っていた。ここにはいないよ。見ればわかることをわざわざ教えてやると、舌打ちをして出て行ってしまった。元カノは、校内では才女で有名な美人である。何の用かは知らないが、ろくな用ではないだろう。同級生は女子にもてる。眼鏡がいいのだそうだ。一年の頃から、十人斬りの何とかと噂されていた。先程の彼女が何人目なのか聞いたことはないので、本当のところは知らない。端末を操作する指が冷たくてよく動かない。この冷え込みでは、午後の授業中から降り続いている雨が、いつ雪に変わってもおかしくなさそうだ。もぅ誰もやって来ないだろうと、戸締まりして部室を後にする。下駄箱まで下りて行くと、赤い傘を所在なげに携えた同級生がいた。その傘どうしたの。一年が貸してくれた。思わず、傘なしで帰って行った女子に心中で同情する。多分、一緒に帰りたかったのだろうに。お前、傘は? 持ってない。駅までは二人とも帰る方向が同じである。予備校の為、反対方向の電車に乗る同級生とは、実は家が隣同士の幼馴染でもある。頭一つ分背の高い方に持ってもらって、同じ傘で歩き始める。今夜は月が見えないな。折角、……だったのに。同級生の呟いた肝心の部分が聞こえなくて、下を向いていた顔を上げる。同時に赤い傘が視界を遮って、何か一瞬、冷えた唇に触れる。一度離れて、眼鏡が鼻に当たった。一時停止していたら、同級生が囁く。悪かった。謝罪の言葉に我に返って思わず、雨の中に一人、駅へと駆け出していた。

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