《MUMEI》

奏と待ち合わせをしたのは、駅前のエッジという喫茶店だった。…こうやって書くととても簡単に見えるし聞こえるが、実際はとても大変だった。僕が住んでいるのは、愛知県名古屋市、だが彼女が住んでいるのは、滋賀県。ちょっくら話をしてくるわ、と言って会える距離じゃないのだ。
今思えば、もしこの時彼女に会いに行ってなかったらと思うと鳥肌が立つ。こんな出会いをしたからこそ、僕は、音楽がより一層好きになった。
 待ち合わせの前日に、僕は滋賀にいた。一応ホテルをとってあったので泊れたが、かなりきつかった。着いたのは、真夜中だった。ホテルのフロントの人がものすごい迷惑そうな顔で睨んでくるぐらいの真夜中だ。
「ふぁ〜あ」
欠伸をしながら部屋に入り、ベットに倒れこむと、ものの3秒もたたないうちに眠ってしまった。
 朝7時、いつもの習慣で目が覚めた。奏との約束は午後からだったが、しょうがない。昔作った歌をなんとなく歌いながら、パソコンを立ち上げて、メールを見てみる。奏からのメールはないので、閉じようとすると新しくメールが入ってきた。
  
  ナツキさんへ
 どうも、お忙しいところ申し訳ありません。今日の約束ですが何時ごろがよろしいでしょうか、お暇な時間にお電話ください。
  奏

お暇な時間と言われても、今むちゃくちゃ暇なので、電話をしてみることにした。

プルルルル    プルルルル    プルルルル    プルル ガチャ

「もしもし、奏です」
「あ、もしもし夏樹ですけれども」
「あれ夏樹さん?御用時は?」
 しまっっっっっっっっっったーーーーーーーーーーーーーーーー! そうだった、俺は今、用事があって滋賀に来てるんだった!すっかり設定のことを忘れてた!
「い、いやー用事が早く終わったんです!アハハハハハハハハ…ハハ…。」  
奏がだいぶ驚いた様子で
「そうなんですか!?まだ朝早いですけど速かったんですね」
 しまっっっっっっっっっったーーーーーーーーーーーーーーーー! それもそうだ、まだ朝の7時30分いくらなんでも早すぎである。 
(トホホホホ)
とにかくうまくごまかして、9時に喫茶店で待ち合わせにした。

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