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《MUMEI》 第三夜 例と音猫なら三万､犬ならば二万､合成では一万｡何のことかというと三味線の皮の話である｡猫を飼っている人にこの話はしない｡鬼畜の如くと蔑んだ目で見られるのはわかりきっているからだ｡猫が嫌いな訳ではない｡もちろん犬だって｡かわいい動物が出演している番組だってよく見ている｡注文があってから獲りに行くから日数がかかるのよ｡仲間内では冗談で済まされる｡彼女たちの何人かは猫や犬を飼っているらしい｡偽善者ぶる必要もないのか｡世界は奇妙な回転をしている｡グレープフルーツジュースとホットミルクを朝食としてから､今朝一番に一本電話をかけた｡昨夜ものすごい音を発てて三味線の皮が破れたのだ｡狼男も逃げ出すような断末魔の叫び声を上げて｡合成ならば破れない｡でも音が全く違うのだ｡知っていれば安くてもどうしても満足はできない｡そうして何年かに一度張り直すことになる｡仔を産んだ猫の皮は駄目なのだと言われている｡女の立場で考えると理不尽な事実だ｡決して差別ではなく､やはり音が問題なのである｡例え単なる遊びでは､あっても｡往々にして､遊びほど金がかかるものだ｡本職は事務員である｡職場はコンクリートが剥き出しの古い四階建てビルで､エレベータも存在しない｡毎朝､自力で階段を上って出勤するので､踵のある靴なぞここ数年､新調していない｡事務所の所長は三十前後で､まだ若い部類だが､事務員の入れた湯呑みの茶を所員と窓際で飲んでいることが多い｡最近､男子高校生アルバイトが働き始めた｡勝手に色々比べては､ため息の出る毎日である｡ 前へ |次へ |
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