《MUMEI》

突然に告げられたソレに田所は驚き、岩合の顔を見やっていた
「そもそも、この話は互いの祖父同士が勝手に決めた事だ。ソレを押し付けるのも、と思ったらしい」
「そ、か……」
この現状から解放される
聞かされたそれは嬉しいはずのものだ、それなのに
何故、喜べないのだろう。何故、物足りなさを感じてしまうのだろう
自身の胸の内が解らず、田所は困惑してしまうばかりだ
「……あんたは、ソレでいいのか?」
「何がだ?」
聞き返してくる岩合
田所が懸念している事、それは
この婚姻話がなくなってしまった事で、この家の中での岩合の立場が悪くなってしまわないだろうかというもの
つい口に出してしまえば
「心配、してくれているのか?」
揶揄う様な笑みを浮かべた岩合の顔が間近
その手が田所の頬へと触れ、そして引き寄せる
ふわりと岩合の腕に抱きとめられれば
すっかり馴染んでしまった岩合の香りが鼻をくすぐった
ホッと息をつき、全身から力が抜けた
岩合の胸へと身を預けてやれば、頬へと手が添えられ
そのまま上を向かせられたかと思えば、岩合の唇が田所のソレに触れてくる
仄かに香る煙草と、岩合の感触
戯れ程度に触れてくる手に
だが一度その後の快感を味わってしまった田所の身体は容易に反応を示し始めた
恥ずかしい
見られたくはない、とソコを手で覆ってしまえば
背中越しに、岩合笑ったのが知れた
「手、退けろ」
「嫌、だ」
首を振りながら、つい前屈みになってしまう田所
嫌々と中々の強情を張る田所へ
だが経験は岩合の方が矢張り豊富な訳で
前が駄目ならば、と背筋を指でなぞりそのまま下へ
「――!?」
「……本気でお前が欲しいと言ったら、お前は、どうする?」
指が擽る様に其処を弄りながら岩合が耳元で呟く
欲しい、それは一体どういう意味か
性欲のはけ口としてか、それとも
「……俺の事、欲しいのか?」
「ああ」
「こういう事、する為だけに?」
それならば頷いてなどやるものかと岩合を睨み付ける
その意図が通じたのか、岩合は肩を揺らしながら
「こういう事も含めて、お前の全部が欲しい」
思う事を、田所へと伝えてやった
何故、とまた田所が問うてやれば
「お前に触れるのは心地がいいからな」
一緒に居ると安らげるのだと、続けられる声
今まで聞いた岩合の声で、その言葉は一番優しく田所の耳に響く
嬉しいと感じてしまうのは何故
逃げ出したいと、思って居たのではないのか、この男の元から
解らなくなってしまっている己が感情に
田所は不安気に眼球をゆらつかせるばかりだ
「夏生」
低く名を呼ばれて孝人思えば引き寄せられる頬
そのまま唇が塞がれ、舌を吸われる
身体ばかりが先行して岩合にならされていく感覚
怖いのに、拒めないのは
「……好きに、なるかも」
その可能性がゼロではないから
嬉しいと感じるのも、触れられて感じてしまうのもそのせいだ、と
田所は自身の感情に漸く納得し
岩合から与えられる全てを受け入れていたのだった……

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫