《MUMEI》
新斗の頼み。
目を覚ますと、右隣には新斗が椅子に座りながら居眠りをしていた。
俺は、ベッドに横たわっていた。
此所は……病院……か?
混濁した記憶が鮮明になる。
そうか。オレ、敗けて、こうなっちまったのか。
体が痛い。
右腕は動く。
左腕は、かろうじて。
両足の感覚もある。
とりあえず、五体満足なようだ。
美鶴は、どうなったんだろう。
あれから、どれだけの時間が経った!?
美鶴は……無事なのか!?
痛む体を無理矢理起き上がらせる。
その時に、新斗は目を覚ました。
「起きたか、風影」
「起きたのはお前だろ」
新斗はため息を吐き、無視する。
「なあ新斗。俺がこうなっちまったのは……なんとなくわかる。美鶴はどうなった?」
新斗は、無視する。
「……?なあ新斗。聞いてるのか?」
新斗は、無視する。
「……おい、新斗。ふざけてんのか?どうしたんだって聞いてんだよ!!」
「ここは病院だぞ。声を荒らげるな」
ふぅ……、と新斗はため息を吐いた。
「お前にしてもらいたいことがある」
「はあ?」
それが人にものを頼む態度だろうか。
「美鶴は無事だ。今のところはな」
「今のところって……なんだよ。その言い方じゃ、またヤバいことが起きるみてえじゃねえか」
「その通りだ」
新斗はシレっと言いはなつ。
「必ず起きるだろうな。品川と目黒、あいつらはまた襲ってくるだろう」
「なんでそんな冷静なんだよ!」
「慌てればいいのか?」
新斗は声量は変わらず、諭すように聞いてくる。
確かに、そうだ。
混乱していたり、頭に血が昇っていたりしているよりも、冷静の方が良い。
新斗の目は真っ直ぐにオレを見ている。
「こう見えてもボクだって焦燥している。お前が倒れて2日……、毎日が気が気じゃなかった。ボクの見立は、見当違いなのではないか、とかな」
新斗の目は、真っ赤に充血していた。
顔も少しやつれているようにも見える。
新斗も、悩み苦しんでいる……。
「……わかった。オレは何をすればいい?」

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