《MUMEI》
第六夜 腐れ縁
中学二年の三月、振られた。幼馴染みの兄だった。反動なのかどうか知らないが、中学卒業までの一年、女とつき合っては別れを繰り返した。自分から告白したことはない。高校生になったところで、心を入れかえるはずもなく。幼馴染みとは中学に続いて、同じ学校に進学し、同じクラスで部活動も同じだ。面倒くさくなって、幽霊部員化しつつあるが、幼馴染みとの関係は変わってないと思う。幼馴染みとその兄とは、たれ目気味か、つり目気味かということ以外は、よく似た容姿をしていた。性格は似ているようで、多分違っている。不実で堕落した行動を続ける自分に、幼馴染みは、諭しもしないし怒りもしない。次々代わっていく女たちを同情の眼差しで見送るだけだ。子供の頃から、辛いとき、嬉しいとき、寂しいとき、楽しいとき、悔しいとき、何ということはないという穏やかな顔をして、傍らにいた。雨の日に二度、悪戯に唇を奪ったことがある。幼馴染みの怒った顔を見ることができたという傲慢な達成感と同時に、奇妙な感情に支配されて戸惑った。けれど、以後も何ということはない顔。告白してしまえよ、早く。倒置法。教えてやらなければならない。幼馴染みの書いた文章を盗み見たことも白状しなければならないが。誘惑に勝てるものがいるだろうか。いや、いるまい。使い方を間違えている。十三月が家の窓から見える時分に、携帯端末の呼び出し音が鳴った。起きてるか? 起きてるよ。自室の窓の向かいに、明かりの灯る部屋の窓がある。子供の頃、幼馴染みは真夜中によく、窓からこちらへとやって来た。今は互いに顔を見ることなく、延々と他愛のない馬鹿な話をするばかりだ。

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