《MUMEI》 第七夜 若年寄ジュペリ男爵は背徳の美少年である。と言っても、実態はしがない喫茶店の三十路マスターだ。男爵の由来は知らないが、ジュペリは店名からだろう。店の真ん前にある市立高校の教師御用達になっていたりして、生徒は店内にほとんど足を踏み入れることはない。学生だからという理由ではなく、マスターは男色だという噂があるからだ。女子学生は少数、来店する。アルバイト学生を除外して、男子学生は全く来店しない。噂の真相は定かではないが、全くのデマではないと思う。根拠は経験、ではなく現場を見たからだ。仕事場は三階建物の一階にある。二階は事務所なのか倉庫なのかよくわからないのだが、マスターが男子学生を連れ込んでいるのを以前、目撃した。同じ高校の男子ではないが見覚えがあったので、地元の人間かもしれない。マスターと目が合って牽制されたため、顛末までは見ていない。無駄に整った顔をしているので、色々と怖い。三階にある古本屋店長は常連だ。いまもカウンターで抹茶ミルクを飲んでいる。その隣には同じく常連の市立高校教師が座っていて、そのまた隣には調査事務所所長だという男が座っている。共に玉露の湯呑みを両手で支えており、仲良く丸まった背中が、縁側の茶飲み友達かっつー和みっぷりである。店長は中年親父だから良とするが、教師も所長もマスターと同年代である。しかも教師は妻帯者だ。アルバイト学生の義兄でもある。因みにマスターとの仲を疑った代償として義弟は使役させられていた。所長は仕事場でも事務員にお茶をいれてもらっては窓際で背中を丸めているらしい。狼、否、狐狸の類いに振り回される身内の苦労を常々、考えるのである。 前へ |次へ |
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