《MUMEI》

 「もう!小鴨ってば超可愛い!!」
翌日、大学祭当日
準備も何とか終わり、身支度も整えた丁度その時
女子らが集まっているソコから歓声が一斉に上がる
突然の奇声に、男子全員がそちらを見やれば
群れを成す女の其処から押し出されるように小鴨が飛び出してくる
ふわふわ、ひらひらの、メイド服
突然群衆の前に晒され、小鴨は今にも泣きそうな顔だ
周りの男共はその可愛さに勝手に盛り上がり、女共は鳥谷のギャルソン姿に騒ぐ
馬鹿ばかりか、此処は
最早突っ込んでやる気力もなく、鳥谷は深い溜息をつく
「もう、鳥谷ってば!そんな暗い顔しない!はい、コレ」
強く肩を叩かれ、その流れで渡されたのは
宣伝用のチラシ
配って来いとでも言いたいのだろうか
相手をチラ見してみれば、行ってこいとのGoサインだ
「……小鴨、行くぞ」
何であれこの場所から離れられるのならば、と
チラシの束を担ぎ、小鴨の手を取るとその場を後に
頑張って宣伝して来い、との激励を背に鳥谷らは歩き出す
「今から何処に行くんですか?」
チラシは配らなくていいのか、との小鴨へ
鳥谷は道すがら様々なパンフレットが置いてある机がある事に気付き
此処に置いておけばいいだろう
溜息を吐いてやりながらパンフをそこへと置くと、鳥谷はまた歩き出した
「み、皆の処には、戻らないですか?」
その後をついて歩く小鴨が問うてくる
鳥谷は僅かに首だけを振り向かせてやりながら
「俺らの当番、昼からだからな」
まだいいだろうと人目を避ける様に裏庭へ
「少し寝る。一時間位したら起こして」
お休み、と芝生の上に身を寛げる鳥谷
すぐに聞こえてくる寝息に、小鴨はどうしたものかと慌て始める
だが子供の様な寝入る鳥谷の様に
小鴨はその横へと腰を降ろすと暫くこのまま寝かせてやろうと肩を揺らした
「……」
ソコで鳥谷が僅かに身じろぎ、小鴨へと手を伸ばす
行き成りのソレにどうしていいか分からなかった小鴨は鳥谷の腕に抱き込まれ
そのまま鳥谷に膝を貸す羽目に
「小鴨?あんた、こんな処で何してんの?」
暫くそのままで居ると、二人を探しに来たのか友人が中庭へと顔を覗かせる
小鴨は慌て始めるが、鳥谷が膝の上でどうすることも出来ず
その様をしっかりと見られてしまった
「……何、してんの?あんた達」
現状を問われ、小鴨は返答に詰まる
どう答えていいのかうろたえてしまっていると
「ソイツ、小鴨には相当気許してんだね。可愛い寝顔しちゃって」
友人からの言葉に、鳥谷の顔を覗き込みながらそうだったら嬉しいと、笑みを浮かべる小鴨
自分が鳥谷の一番に、特別になれたならと、ついそんな事を考えてしまえば
「大丈夫よ。子離れできてないのは多分、親鴨の方だと思うから」
笑みを含ませた友人の声が向けられる
それはどういう事なのだろう
改めて聞こうと口を開けば友人の笑顔に遮られた
「ちゃんと、伝えなさいよ。じゃないといつまで経ったって(親子)から卒業出来ないわよ」
それだけ言うと友人は手を振りながらその場を後に
親子
その言葉に、小鴨は胸の奥に小さな痛みを覚え
まだ寝入る鳥谷の顔を覗きこむ
「……言っても、いいのかな」
思う事を伝えて、今の居心地のいい距離感が無くなってしまうのが怖い
そうなってしまう位ならいっそこのままで
「でも……」
何も変わらないままも嫌なのだと
ぐるぐるとまた考え始めてしまえば、涙が自然に頬を伝う
「……どうした?」
不意に触れてきた手、見やれば鳥谷と視線が重なり
泣いてしまっている処を見られては、と手の甲で頬を拭う
「擦るな。赤くなる」
その手を止めてやるが、小鴨は首を横に振るばかりで
どうすれば、いいのだろう
すっかり困ってしまった鳥谷は小鴨の頭をなで始める
「……私は、ずっと、(子鴨)の、ままですか?」
「?」
小鴨からのその問いに、鳥谷は瞬間解らず小首を傾げる
撫でてくる鳥谷の手を取ると、強く握り返しながら
「私、はそんなのは嫌です!!」
引き寄せたかと思えば小鴨の唇が鳥谷の頬へと触れた

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫