《MUMEI》

 「処でお前、家に帰りたいとは思ったりしないのか?」
岩合からそんな問い掛けを戴いたのはあの一軒から一週間ほど経ってからだった
その後も田所は岩合との同居を続けており、そしてこの台詞
帰って、欲しいのだろうか
遠まわしにそう言われている様な気になり
田所はソファに身を寛げている岩合の膝の上へ、向かい合う様に乗り上げる
暫く無言で互いに対峙すれば、岩合が溜息を一つ吐き
「……お前が考えて居る様な意図で言ったわけじゃない。そんな顔をするな」
「じゃ、何だよ?」
言い訳するような岩合へ更に問い詰めてやる田所
どういうつもりで言ったのかを更に問い詰めてやれば
「……帰りたがっていただろう。お前」
その事を指摘され、田所は声を詰まらせる
確かにそうだった。だが、今は
「……どう、何だろうな。解んない」
帰りたいと思わなくなったわけでは、決してない。唯
それ以上に気になる人物が目の前に居るだけの事
その事を告げてやる事はもう暫くはしてやるつもりはない田所だが
岩合の頬へ、徐に手を添えてやると
そのまま引き寄せ、触れるだけのキスを一つ
「暫くは、いい。もう少し、此処にいてやる」
「良いのか?」
戯れの様なキスを受けながら、岩合の笑みを含んだ声
思う事を見透かされてしまったのだろうか?
岩合のその笑みに僅かばかり動揺し、腰を引き掛ける
ソレを岩合はまた引き寄せながら、シャツをたくし上げ指先で背筋をなでる
「……っ!」
それはまるで情事を思い出させる様なソレで
こんな日も高いうちから何をするのかと睨み付けてやれば、構う事は全くせず
指は徐々に下へ
「……も、人の話、聞けって……ぁ」
「相変わらず、感じやすいな」
ソコに触れられ、明らかに反応してしまう田所
それでも何とか耐えてやり過ごそうとする様に
岩合の支配欲が煽られないはずはなかった
この身体が欲しい、この身体でなければ
いつの間にか岩合の中にあったその感情に、今は酷く従順だ
「もう、俺のものになればいい」
中にまで触れてやれば、田所の身体が酷く跳ねる
だが拒まれない事に田所も同じ想いを共有しているのだと実感できた
これが恋なのか愛なのか、それはどちらにも分からない
いつか、解る時が来ればいい
そんな事を考えながら、二人は終わりを迎えるまで互いを求め合ったのだった……

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