《MUMEI》

『神のペン』....。


考古学者によれば、その存在に関する最初の記述は、人類最古の文明であるシューメーラの粘土板に、すでに記されていると言う。


東洋の黄金郷(エルドラド)ジパングの神話を記したコ・ジッキに、『天の鉾(ほこ)』の名前で呼ばれているものこそが、その『神のペン』の事であると言う。


『神のペン』と思われるものの記述は、世界中の神話に散見される。


神話に共通しているのは、こんな物語だ。


遠い....
人類がまだ存在してさえいない、遥かな遠い過去....
『神のペン』は星の世界から地上にもたらされた....。
まだ混沌としていて形さえ持たない世界に形を与え、最初の生命を作り出したと....。


一部の異端の学者達の中には、シューメーラの文明以前に超古代文明が栄え、『神のペン』の力により、一度その高度に発達した人類の文明は消滅した事があると唱(とな)える者達もいたが、そうした説はオカルトの類いとして、アカデミックな立場からは一笑に付された。


現在、『神のペン』の伝説は様々な文化....
音楽や小説、童話などに形を変えて人々に親しまれている。


そうした人々の中には、『神のペン』の存在を現実のものと信じて、その在処(ありか)を求めて旅立つ者達もいた。
ある者は富と力を....
ある者は夢とロマンを....
ある者は救済を求めて....


だがそうした者達はいづれも、その旅の途中で倒れるのが常であった 。


現実(リアル)主義者を気どる者達は、
『神のペン』を求めるそうした者達の末路を影では嘲笑していた。


彼らは敗北者であるがゆえのルサンチマンから、『神のペン』の妄想に取り憑かれ、わが身を滅ぼしたのだと....。


だが旅路の果てに待つのが『希望』であろうと『絶望』であろうと、『神のペン』を求める者達が此の世から絶える事は無い。


『人間』と言う理屈では計り知れない存在が、此の世に存在する限りは....。

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