《MUMEI》
第十夜 満ち月
駅階段の踊り場で、同級生が険悪な雰囲気を醸し出す女子二人に挟まれていた。濡羽色のロングヘアと亜麻色のベリーショート。小豆色のワンピースの胸元にタイの制服は、沿線のお嬢様女子校のものだ。二股かな。同級生は冷めた表情で眼鏡を押し上げて、何か一言二言受け答えると、囲いをすり抜けて階段を下りていく。まるで彼女たちに、関心も興味もないみたいだ。通称十人斬り。取り残された女子二人の脇を素知らぬ振りで通り抜け、乗り場に向かう。指先が冷たい。多分、雨が振り出す前触れだ。同級生が珍しく同じ方向の昇降口に立っていて、こちらに手を上げた。近づく途中で制服の尻の携帯端末が短く震える。着信を確認すると兄からの呼び出しであった。大学に進学して離れた場所で一人暮らしを始めたのに、わざわざ地元の古本屋で働いているのだ。兄貴が帰りに寄れってさ。ふ〜ん、元気にしてんの? 多分ね。三人でよく遊んでいたのに、二人だけが増えていた。それから、中学三年と高校入学前には、冷え性で出不精な自分が、同級生に色々と連れ回されていた。用事があるという同級生と地元の駅で別れて、古本屋に向かう。すぐに出るつもりだった。三階にある店を出て一階に下りると、案の定、雨が降っている。本格的な大降りだ。寄ってけば。一階にある喫茶店から、同級生の元彼女が顔を出した。彼女の兄が店主なのである。通称ジュペリ男爵、兄妹揃って美形だ。入れよ。微笑する店主の笑っていない目に、目を逸らす。何もかもを見通しているような視線が以前から苦手なのだ。すぐ止むよ。今夜は折角の満月だしな。いつか聞いた穴あきの科白。ふいの、天啓。

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