《MUMEI》
第十一夜 流星群
平日休みのいいところは、どこに行ってもあまり混んでいないことだ。通過するのに身分証明書が必要な場所なのだが、どうせ車の免許証で事足りる。強引に同乗させた友達も免許証を持っていた。クーペの助手席に人を乗せてやって来たのはいつ以来だろう。金網の向こうに見える飛行場では、各国の旅客機が離陸と着陸を絶えず繰り返している。寄り道するつもりはなかった。展望の丘に行ったのは偶然である。自分はこういう役回りを、運命づけられているのだろうか。一本やった煙草を吸う友達は先程から、一言も話さない。昔から、運命とか占いとか風水やらを信じない性質だ。と言いつつも、高校生のときは、天文部に所属していた。年に数回、合宿を計画する。大抵、校舎の屋上で観測は行われた。明け方にも星は流れていると聞いていたからかもしれない。寝静まった合宿所を用足しで抜け出して、一人、屋上に足を向けた。扉を開けた途端、人の気配に躊躇する。顧問と誰かの二つの影が、極限まで痩せ細った月の下で一つになっていたのだ。見なかった振りをすることもできた。でも、影が振り向いて誰なのかわかって、咄嗟に名を呼んでしまった。助けを求めているのか曖昧な友達の表情と先刻の表情が思い出の中で重なった。気まずげな顧問は同様に置き去りにした。いつも年上だ。気づくと、煙草の灰が落ちそうで携帯灰皿を突き出すが、動かない。丘では笑っていたのに。友達は黙って歯を食い縛り泣いていた。指から吸い差しの煙草を抜き取って、灰皿におさめると、震える肩を抱き寄せる。昔から変わらない、慰めか励ましかわからない動作は、もう必要ないと思っていた。

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