《MUMEI》

「あ、カケル。」

聞こえた瞬間、全身から冷や汗というか、焦りが吹き出した。

「あい?あんれあうあおおい?(何?なんでハルが此所に?)」

余裕なフリをして口に物を入れたまま話し掛けてみる。先ず謝ることが先決だろうか。

「あ、ハルさん。」

「サヤちゃん、朝ぶりね。」

妙に穏やかなのがまた恐い。

約束を普通に忘れて腹ごしらえをしていた俺は、咄嗟の判断で謝る言葉を次々脳内に連想させていた。

「カケル。」

「……はい。」

名前を呼ぶと同時にハルが体ごと俺に向けて威圧の言葉を放ったので、俺も口内のオムライスを飲み込み、向き直った。

「今日の事で怒るのは私じゃないわ。」

「……は?」

てっきり毎度の事、激怒されるものだと思い込んでいた俺は、拍子抜けをしてしまった。

「あれ、そういえばアカネさんは?」

サヤが放った一言で、全て察した。

「もうすぐ来るよ。今メッセージ入れたから。」

多分、アカネとハルは俺を探すのに分担していたんだろう。

「このお店有名だから名前知ってるだろうし、すぐ来れると思うな。」

そして、俺がアカネを待たせるのは初めて。

「カケルに会いたがっていたみたいだし。」

会いたいってのは、つまりそういうことだ。

「やだ、ショウ兄。モテ期じゃない?」

一人でなんだか知らないが嬉しそうなサヤと、微妙なオーラを発するハルと、顔を青ざめながら残りのオムライスをゆっくり頬張る俺。

アカネに早く来て欲しいような、来て欲しくないような。

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