《MUMEI》
退屈な日常
永遠、なんて存在しない。

永遠なんてまやかし、いずれは冷めていくものだ。

それなのに、どうして皆、そのことに気付かない。

「それでさ、彼、泣いて縋るのよ。『俺にはお前しかいない』とか言っちゃって」

「キャハハッ! 何それ、超ウケる。てか、本当にそんなこと言う奴いるんだ?」

「でしょ!? 流石に私も引いたわ。でもまあ、悪い気はしなかったし? ブランド物の財布で許してやったわよ」

「うわ、あんた悪女じゃん。彼氏、可哀想ー」

「財布で水に流してやったんだから安いもんじゃない。あ、それよかあんたは? 最近どうなのよ」

「私はねえー……」

吐き気がする。何て、くだらない。

高校に入学して早3ヶ月。あの頃、私達を迎えてくれた満開の桜もすっかり散り、今はその木々に瑞々しい若葉が茂っている。そんな季節の移り変わりと共に学校生活にも大分慣れ、行動を常にするグループも形成されていった。かくいう私もクラスの中心と言えるような派手な5人組みの中に入っている。しかし、私は所属するグループを間違えたとひしひしと後悔していた。

「あー、分かる分かる。ね、理緒(りお)は?」

「んー……私はないな」

また1人話し終え、次の矛先は私へと向けられた。それを私は、少し考える素振りを見せながら笑顔で躱す。「理緒のそういう話も聞いてみたいなあ」なんて揶揄されるが、それさえも笑ってスルーだ。

そうすれば、友人はまた別の誰かに同じ話題を振るのだから。白羽の矢を立てられた友人は、ポツリポツリと最近出来た彼氏について語り始める。

朝から放課後まで暇さえあれば誰かの机の周りやトイレなど一ヶ所に集まり、ペチャクチャペチャクチャうんざりするほど喋る喋る。そのわりに話題はいつも変わり映えしない。美容とファッション、噂話に悪口、時々テスト、それから恋愛。飽きることなくティッシュペーパーよりも薄っぺらい話を延々と続けていくのだ。

今も、彼氏の愚痴と見せかけて、"自分は愛されている"という自慢大会が繰り広げられている。そうしてケラケラ笑って、締めに何か悟ったようなことを口にして。彼女等からすれば、男は馬鹿だ、彼氏は単純だ、らしいが私から見れば恥ずかしげもなくそんなことを言い合っている彼女等も充分に頭が悪いと思う。……絶対に口には出さないけれど。

「理緒、聞いてる?」

「勿論。聞いてるよ」

ボーッとしていた私に気付いたらしく声をかけられる。ぼんやりしながらも彼女等のことは意識の隅に留めていたので我に返ることはない。すぐさま頷けば「それなら良いけど、」とあっさり納得して再び彼女等はお喋りに夢中になっていった。どうやら上手く誤魔化せたようだ。

耳にするだけで気分が悪くなる話なんか、笑顔の仮面を被って聞き流していれば良い。彼女等は何か言葉を求めている訳ではなく、ただ一方的に話したいだけなのだ。

だから、本音なんか死んだって言わない。それとなく話を合わせて、ニコニコしていればこの狭い世界の中で上手に生きていけるはずなのだ。

それでも。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」

それでもこうして、逃げてしまいたくなることがある。そんな時は、絶対に悟られないようにしながら席を外す。話に一区切りついたところで控え目に断りを入れ、椅子から立ち上がれば特に疑う様子もなく送り出された。

多分、途中で消えるような奴に興味がないのだろう。現に、亜梨沙(ありさ)は鏡を眺めているし、美知(みち)は財布の中身をチェックしているし、芽衣(めい)や岬(みさき)は携帯をカチカチと弄っているのだから。それならそれで好都合だと冷めたことを思いながら、私の足は真っ直ぐに、ある場所へ向かっていた。

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