《MUMEI》
秘密基地の崩壊
気の休まる世界はたった今、崩壊してしまった。「はあ、」と自分自身に呆れて溜息をつく。帰るかと立ち上がろうとした矢先、不意に腕を掴まれた。

「帰るので放して下さい」

「まあ、待て。昼休みはあと20分もあるんだから」

「良いです、帰ります、戻ります、失礼しました」

「うーん……じゃあ、俺が煙草吸い終わるまでで良いから付き合ってよ」

「嫌です」

「さて問題です。俺が煙草1本吸い終わるまで何分かかるでしょう」

「知る訳ないでしょう!?」

全く私の言い分を聞いてはくれず、あくまで自分のペースで話を進める先生にイラッとして思わず怒鳴り返す。それが意外だったのか先生は目を丸くした。その表情を目の当たりにし、しまったと私は口を閉ざす。もう口にしてしまったのだから、何の意味もなさないのだけれど。再び溜息をついていると、先生の左手、正確には指と指の間にある煙草が目に入った。

「灰、落ちますよ」

「あ、本当だ」

今にも地に落ちそうなそれを指摘すると、先生は慌てて左右のポケットを探り始めた。そして、シルバーの携帯灰皿を取り出すと、その中に灰を落とした。安堵したのか「危ねえー」と呟いている。校内に灰を落としておく訳にはいかないからだ。

何となく帰るタイミングを失った私は、渋々先生の隣に上げかけていた腰を下ろす。逃げる気が失せた私を察したようで、先生は私の腕から手を放した。微かに吹いている風が煙を攫っていく。

「で、何がしんどいって?」

「あ、」

話って、さっきの私の独り言を指していたのか。……教師として放っては置けない!みたいな使命感に燃えているのだろうか。そう考えると、何だか凄く嫌だ。どうせなら少し困らせてやりたいと意地悪な気持ちに苛まれ、私は両手の指をキュッと丸めると口を開いた。

「先生は、」

「おー」

「……永遠って信じますか?」

「――は?」

気の抜けたような軽い相槌を打った先生は、次の瞬間不思議そうな表情(かお)を見せた。

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