《MUMEI》
笑顔の仮面
「ただいまー」

「おかえり。てか、遅かったじゃん、混んでた?」

「少しね。あと、ジュース買ってきたから」

教室に戻って、亜梨沙達に明るく声をかける。私の左手にあるペットボトルを見ると、「そっか」と納得したようで彼女等はまた話を再開させた。何とか先輩って手ぇ早いんだって、という下世話な噂話である。

すっかり冷たくなった椅子に座りながら、私は自分に煙草の臭いが移っていないかを危惧していた。が、傍に寄っても彼女等はそれについて何も訊いてこなかった。思っていたほど臭わなかったのか、単に気が付いていないだけなのか、気付いているけど言わないのか(これは多分ない。彼女等は無神経だからだ)。どれなのかは分からない。でも、何も言われないのは都合が良かった。もっとも、指摘されたところで言い訳はきちんと考えていた。わざわざ自動販売機経由で帰ってきたくらいなのだから。

「ね、今日カラオケ行かない?」

「良いねー。ストレス発散しますか!」

「理緒は?」

適当に聞き流していたので、どう転んでそんな話になったのかは謎だが、放課後の予定を立てているらしい。次々と皆が亜梨沙の提案に食い付いていく。

本音を言ってしまえば、行きたくないことこの上ない。まだ数時間も彼女等と一緒にいなければならないのかと思うと、今日の天気よりも私の心は暗くなっていく。大して行きたくもないカラオケに金払って、楽しくもないのに笑うなんて冗談じゃない。それでも、私はいつもの仮面を何枚も何枚も素顔の上に重ねていくのだ。

「行くに決まってるじゃん! 実は私、最近覚えた歌あるんだ」

「フフッ、ノリ良いじゃん」

「じゃあ、あれ、歌おうよ! 理緒がめっちゃ踊れるやつ!」

「良いよ、その代わり一緒にやってよね」

――ほら、楽勝だ。本当の私なんてまるで知らない彼女等は全員の参加が決まると、気分はもう放課後のようで、あれ歌おう、これ歌おう、とウキウキしている。

そんな雰囲気の中で、私は口角を意識して上げ、明るい表情を作ろうと努めていた。気を抜けば冷笑してしまいそうだからだ。すると、1人の女子が私達5人に近寄ってきた。

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