《MUMEI》
恐怖。
突き刺す瞬間ーーー……
「ダメだよ響くん!!!」
美鶴の声が、聞こえた。
手元は狂い、目黒の咽の僅か3センチ横の地面を突き刺した。
美鶴の声を聞いて、オレは正気に戻った。
「……は?なんだこれ……あ?なんなんだよ……」
自分の体は、目黒の返り血に塗れていた。
記憶に、無い。
意識が、完全にトんでいた。
「……これ、どうなって……、ぐふ!」
上乗りしていたオレを目黒は殴り倒し、目黒は立ち上がる。
オレはまだ混乱していた。
しばらく体も、動かすことができなかった。
「てめえ……なんなんだよ……」
キラッと光るものが目黒は握っていた。
もう一本持っていやがった……。
ナイフ。
「くそ……!」
木刀を握りしめる。
強く握り締めてはいけない。
だが、無意識に強くなっていく。
ダメだ。落ち着け。冷静になれ。
だが、それどころか、力み出すばかり。
添えるだけでいいんだ、と念じる。
雑念というか、ノイズが入り、集中力は一瞬で砕ける。
力みすぎて、体が震え出した。
それだけじゃない。
オレは、怖いんだ。
この命を懸けた闘いが、怖いんだ。
おっせーんだよ。
「響くん」
美鶴の声。
「落ち着いて。あたしなら大丈夫だから。怖いんなら、早く逃げて」
震えている、声。
「あたしは……響くんがこんな目に遭うのが……一番ツラいの……」
嗚咽を発しながら、精一杯の、声。
オレに、逃げろと言った。
美鶴は足を怪我した。
美鶴は、到底目黒から逃げ切れそうにない。
ということは……美鶴を見捨てろ、と?
……ふざけんな……。
「ふっざ、けんなぁぁああああああ!!!」
ガンッ!と木刀を思い切りオレの額にぶち当てる。
その痛みは全身を貫くようだった。
ドロッと血も流れた。
だが、頭は冷えた。
落ち着け。冷静になれ。だが、闘志は燃やし続けろ。
中段の構えから、八相の構えへ。
「風影流剣術ーーー……。疾風迅雷」

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