《MUMEI》

夢のまま(夢)であり続けられるソレなど数えるほどしかない
唯々嫌悪を感じるばかりだ
「……やっぱり、ろくなもんじゃないんだ。夢なんて」
言い終わりに、放たれる銃弾
それは逸れる事無く狙いは定めたまま、打ち抜かれ木端に消える
跡形もなくなってしまったソレをメリーは無表情で見やり、そして身を翻す
ゆるり歩き進んで行けばソコに、先の少年が未だ立ち尽くしていた
何をしているのだろうと一瞥をくれてやれば
「……今、壊したの、なんだ?一体、何がどうなって……」
状況理解が出来ていないらしく、すっかり混乱の渦中に居るらしい少年
説明してやる事は面倒だと、メリーは僅かに溜息をつきながら
「……僕、今から行ってみるけど、一緒に来る?」
手を差し出してやれば、だが少年は困惑気な顔をして見せ
何処へ行くのかを問うてくる
「……君の妹の夢の中だよ。まだ、何か気配がするんだ」
「でも、さっきお前……」
消したのではなかったのか、との少年へ
メリーは更に溜息を吐いて見せながら
「そう、なんだけど、ちょっと気になる事があってね。どうする?」
手を差し出して向ける
少年は僅かに躊躇する様子を見せながらも小さく頷き
そしてメリーの手を取った
「離さないでね。迷ったりしたら出てこられなくなるから」
脅すつもりでなくそう言ってやれば
メリーの手を握る少年の手に僅かに力が入る
中々に素直だ
そう肩を揺らすと、メリーはその肩にのる羊へと目配せ
ソレに応じる様に羊は毛を逆立て、全身を膨らませ始めた
風船の様にその身体は段々と大きさを増し、そして羊はそのまま口を大きく開く
「行くよ」
手をひいてやり、メリーはその中へ
入っていけば、途端にぐにゃりと歪む視界
様々な色が混じり合った歪な色彩
自身の存在ですら、この中では酷くあやふやだ
「……何か、気持ち悪い」
全てが違和感でしかないこの場所
ヒトには居るだけで辛いのか、少年が口元を抑える
連れてきたのは失敗だったかもしれない
すっかり蹲ってしまった少年へ
メリーは溜息に肩を落とすと上着を徐に脱ぎ、少年へ頭から被せてやった
「少しは、楽になった?」
その空気に触れる部分が減ったおかげか
震えていた少年のそれが、僅かに収まった
また歩き出した少年へ
メリーは僅かに溜息を吐くと改めてその手を引く
「……どこまで行くんだよ?」
いい加減歩くことに飽いたらしい少年からのソレ
袖を引かれその脚を止めると、メリーは僅かに首だけを振り向かせ
「見えたよ。あそこ」
指を差した
その先にあったのは、何故かベッドで
たった一つソコに在って、その上には何かが横になっている
妹では、ない
ならば何なのかと少年が一歩、出ようとするのをメリーは手を出して止めた
何故止めるのかと睨み付けてくる少年へ
メリーは答えて返すよりも先に少年の前に出る
「……ここで、何してるの?ナイトメア」
声を掛けてみるが、それからの反応はない
面倒くさい
深く溜息をつきながら、メリーは自身の獲物をソレへと向けた
ゆるり、撃鉄を起こす音。引き金に指を掛けた、その直後
それが、突然に人の型を成す
「……お前は、夢魔か」
それはメリーに向けられた問い
此処に居る自分に、随分と当然な質問をする
そう訝しみがらも、一応は頷いて返せば
「……そう、か」
ユラリ、相手の姿が揺らめいた
同時に歪みだす周りの景色
自分が今、ソコに立って居るのか座っているのか
それすら分からなくなってしまう程の違和感
メリーでさえ感じてしまうソレに
その後ろに居る少年はヒトの子、耐えられるのだろうかと様子を窺う
「何、だよ。コレ、嫌だ……!」
少年の顔からは明らかに血の気が引き
後もう少しで倒れてしまうという処まで来て
その違和感は何故か弾ける様に消えていった
それまでソコに在った、重く圧し掛かる様な空気は失せ
少年が深く息をはくその音が聞こえてくる
「……逃げるよ」
返事を聞くよりも先に、メリーは少年の身体を肩へと担ぎ上げ
足元を蹴り付け宙に浮いた
ナイトメアの姿が見えなくなってしまう程高くに飛び
そこでメリーは頭の上で身を丸めている羊を指先で小突く
それに気付き、ハッと顔を上げたかと思えば

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