《MUMEI》
勝利。
木刀を立て、右肩の高さにまで上げ、左足を前に出して構える。
まるでバッティングフォームのような構え。それが八相の構え。
八双の構え。陰の構え。木の構え。
色々な名前がある。
今の時代じゃ、八相の構えをすることなど、一切ない。
なぜなら、この構えからでは、どんな技も繰り出しにくいからだ。
だが、この構えにだって、意味はある。
「行くぜ……!!」
痛む左足に鞭を打つ。
「……!かかってこいよお!」
ナイフを構え、オレに向かって走り出す。
「うおおおおお!!」
オレも走り出す。
木刀の切っ先を目黒に向ける。
目黒は木刀を警戒している。
この構えからの攻撃は、単純。
突き。
それを感じ取った目黒は、すでに木刀に神経を集中している。
こんな状況でも、微かに笑みがこぼれる。


騙されてくれたよ。


木刀の柄の先を指先に乗せ、木刀を思い切り投げつける。
「ッ!?」
完全に不意を突いた。
木刀は目黒に直撃し、態勢を崩した。
その隙に、オレは拳を握りしめる。
風影流剣術だって?
そんなもんーーー……。
「あるわけ、ねえええだろおおがああああ!!!」
ギプスハンマー。
オレの左拳は、目黒の顔面に深く、深く入った。
治りかけていた左腕は、ビキビキと悪化していくのがわかった。
そして、これが決着だった。
倒れ伏す。
「はあ、はあ、はあ」
左腕を抑える。
激痛が走る。
勝った。
勝ったんだ。
「やり……。オレの……勝ちだ……!」

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