《MUMEI》
エミリと遭遇
先生は、チャイムが鳴ると弾かれたように屋上を出ていったが、私はそれから10分ほどそこに座ったままだった。ホームルームなんてどうせ大したことは言わないだろうから、サボッたって構わない。何かあるにしても亜梨沙や美知に訊けば済むことだ。1時間目開始の予鈴が鳴るまで、私はその場でジッとしていた。

そうして、授業が始まる数分前に廊下を歩いていると、前方に見覚えのある三つ編みを発見する。何やらヨロヨロと足取りが覚束ない。何をモタモタしているのだと訝った私は、後ろから声をかけた。

「何やってんの?」

「あ、中原さん……」

隣に並んで気が付く。エミリがこの前出した英語のノートと、週末の課題として提出した国語と数学の問題集をクラス分抱えていることに。非力だな、と上に積み重ねてある数学の問題集を持ち上げる。すると、エミリは不思議そうな目を向けてきた。

「手伝うから。そろそろ授業なんだから、返却は後でしてよ」

「……ありがとう」

……なんだ、普通に笑うのか。エミリに対して、オドオドしたイメージしか抱いていなかったので、多少なりとも驚く。それも愛想笑いではなくて、本当の笑みだったから尚更だ。

「あの、」

やっぱり亜梨沙達が怖いだけか、と思案していると、腫れ物に触る様な調子でだがエミリの方から話しかけてきた。「何?」と内心ビックリしながらも冷静に返事をしてやれば、少しの沈黙の後(のち)ソッと尋ねられる。

「げ、元気……?」

「はあ?」

いきなり何だと間の抜けた声を上げてしまった。何か言うにしても、もう少しまともなことは言えないのか。話題作りが下手過ぎる。

「元気だけど……」

一応質問された訳だし、答えてやるも、「そう」と相槌が返ってくるだけで話は続きそうもない。無意識に溜息をつくと、またもや彼女は口を開いた。

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