《MUMEI》

「中原さんってクールだなって思って。それなのに、無理に明るく振る舞ってるっていうか、そんな感じがして……」

「…………」

「ご、ごめんね、変なこと言って。気分悪くした?」

「別に。ただ、そう見えるのかと思って」

「たまに、だよ。私の思い違いかもしれないけど」

勘違いどころか、思い切り図星だ。しかし、律儀にそんなことは教えてやらない。エミリとそこまで親しくないからだ。

「あんたこそ元気なさそう」

「私はこれが素だから」

代わりに少々失礼なことを口にすれば、クスクスとエミリは笑ってみせた。自分をそんな風に言えることが羨ましい。私も勢いのままにぶちまけてみたい。そうしたら、どんなに爽快だろう。

前のドアから教室に入り、突っ切って後ろに並ぶロッカーの上に自分が持っていた分を置く。エミリも同じようにしているのを気配で感じながら、私はサッサと自分の席へ着いた。すると、待ってましたと言わんばかりに亜梨沙達が群がってきた。前のドアではなく、後ろから入れば良かったと後悔しても遅い。

「あんた、何でエミリに手ぇ貸してるのさ。つか、ホームルームいなかったよね」

「寝坊したの。そしたら、目の前をエミリが歩いてるから、」

「うーわ、理緒ってお人好し。エミリなんかに媚売ったって何の得にもならないじゃん」

「そうそう。どうせ媚売るなら教師か男にしとけよ」

「あ、そっか。うわー、失敗した……」

他人に媚を売っている自分を想像して鳥肌が立つも、それを抑えて大袈裟に落ち込んで見せる。「次からそうする」と胸中とは真逆のことまで言う始末だ。「馬鹿だねぇー」とからかわれ、「もう遅いっつの!」と突っ込みまで入れられる。それでまた笑った。もう顔中の筋肉が痛い。

無理に明るく振る舞っている。果たして亜梨沙達からもそんな風に見えるのだろうかと、授業開始3分前にも関わらずはしゃいでいる彼女等を密かに観察しながら私は考えていた。

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