《MUMEI》 赤い瞳。品川を殴った拳が痛む。 《俺人格》の痛覚断絶のおかげで、僕は痛みを感じないはずなのに、痛い。 心も、痛い。 「はあ、はあ、はあ」 口の中から流れた血をぐいっと拭う。 さすがに血の流し過ぎか、視界が朦朧としてきた。 品川が……3人に見える……。 「はあ、はあ、はあ」 3人の品川は全員、肩で息をしている。 とりあえず、相当なダメージを与えているようだ。 ……まだ、だろうか。 あそこまで計画的な新斗のことだ。 響介だけじゃなく、他にもなにか仕掛けているはずだ。 「ッ!」 品川は動き出す。 右拳をこちらに向け、突撃してくる。 ……痛覚は《俺人格》が肩代わりしていて、僕は痛みを感じない。 だから、狙うはカウンター。 バカ正直に真っ直ぐ飛んでくる拳。 品川も結構血を流している。 だからだろうか、品川も恐らく冷静な判断が出来ていない。 前方に、まるで倒れるように進む。 その上を品川の拳が通過した。 右足を踏み込み、地面スレスレから振り回した僕の拳は、品川の顎に直撃した。 品川の身体は一瞬浮き、血は弧を描くように舞った。 もう立ち上がるな……。 そのまま品川は倒れる……かに見えた。 それは、人間の動きではなかった。 棒高跳びの如く背から倒れかけていた品川の身体は、だらんと地面に向けて突き出した右腕のみで身体を一瞬支えた。 そのままの勢いで、身体は一回転し、今度は両足で地面についた。 あり得ない。 まるでマリオネット人形のように、糸で四肢を操られているようだった。 極めつけは……赤い瞳。 充血のレベルを逸脱している程に、赤い。 その目は、品川の意識とは関係なく、身体が動かされているみたいだ。 つまり、何かが品川の意識に干渉している……? それからの品川の動きはぎこちなかった。 動きづらそうに関節をゴキゴキと回し、少しずつ、少しずつ近づいてくる。 まさか……、と感ずく。 僕のリミッター。 響介の狂気。 そして、ミクちゃんの読心。 その影響と、同じかも、しれない。 前へ |次へ |
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