《MUMEI》
雨の中の告白
「よお。やっぱり俺の方が来るの早いな」

「どんだけ暇なんですか」

放課後、私は屋上に足を運んだ。時間帯はバラバラだが、気が付けば毎日ここへ来るようになっていた。1人の時も多いが、同じくらいの頻度で先生がいる。

そういう時は、決まって先生の方がここに来るのが早い。私が先だったのなんて、最初に出会った時くらいのもので、あとはもう当たり前のように先生がそこにいるのだ。

「何で涙目なんですか」

「読書してたらつい……」

「どんな物語ですか?」

「悲恋モノ。これ、凄げぇ切ないんだよ」

「失恋した癖によくそんなもの読みますね」

「なんでそう傷口に塩を塗るかな」

苦笑した先生の隣に腰を下ろす。もう先生と会っても、逃げよう、帰ろうなどという気はなくなっていた。……単に諦めただけなのかもしれないが。

最初は、「座って座って」とか「はいはい、こっちおいで」とか声をかけてきた先生だが、それももうなかった。少し悔しい気もするが、私が自然と隣に座るのを知っているからだ。

「そうだ、先生」

「おー」

「彼女と喧嘩して、仲直りにブランド物の財布が必要だとしたら買います?」

「何、いきなり」

「友達の話です。結局、財布だけ貰って別れたみたいですけど」

「恐ろしい友達だな」

「私もそう思います」

大して面白い話をしている訳でも、笑えるようなことでもないのに、私の口元からは笑みが零れていた。先生が穏やかな顔をしている所為かもしれない。

「んー……それ以前にそんなこと言う女、好きにならないかな」

軽い調子で紡ぐと、先生はカバーの掛けられている文庫本を持って、ゆっくりと立ち上がった。ずっと同じ体勢でいたのか、両手を上に伸ばしたり上半身を左右に捻ったりしている。その様子をジッと見ていると、先生は口を開いた。

「下りるぞ」

「え、え?」

「良いから良いから」

困惑している私に構わず、先生はその場から姿を消してしまった。突然の行動に戸惑うも、「早く!」と下から急かされて慌てて私も鉄の梯子を下った。

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