《MUMEI》 非難翌日教室へ入れば、既に亜梨沙達は机を囲みながら、たむろしていた。今日も窮屈に過ごさなければならないと思うと憂鬱になる。それでも、不本意ではあるが浅倉先生やエミリがいるから心のバランスを保っていられた。鞄を自分の机の脇に掛けると、笑顔の仮面を被って彼女達に近付いた。 「おはよう。昨日、どうだった?」 「…………」 ――え? 正直、動揺してしまった。いつものように笑って声をかけたのに、普段の"理緒"と何も変わらないはずなのに、亜梨沙達はジッと無言で私を見つめるだけで挨拶を返してはくれない。 美知達からは猜疑心に溢れた眼差しを向けられる。亜梨沙に至ってはその視線に敵意さえ籠っていた。どうしたのだろう、と首を傾げていると、頬杖を付いた彼女は探るような口調で尋ねてきた。 「理緒、昨日どこにいたの?」 「え? どこって……」 「とぼけてんの? あたし等、昨日あんたがエミリと歩いてるの見たんだけど」 半ば投げやりに吐き捨てられた美知の言葉に目を見開く。確かにあそこも駅の近くだが、まさかエミリと帰っているところを目撃されたなんて考えてもみなかったのだ。 「外せない大切な用事って、エミリのこと? 私等がエミリにムカついてんの知ってるよね?」 マシンガンの如く私に浴びせられる言葉は、婉曲にエミリと付き合うことを非難していた。ただ、亜梨沙達はエミリを嫌いでも、私は特にエミリが嫌いではなかった。外せない用事があるなんてデタラメを言った昨日の自分を恨みながら、馬鹿みたいな言い分が通ると思っている彼女等に呆れ果てる。 「それって、私がエミリと付き合っちゃ駄目っていう理由になるの?」 「はあ?」 気が付けばそれは、そのまま口に出ていた。すかさず、不愉快極まりないといった感じの亜梨沙の声が入る。美知達も思い切り眉間に皺を寄せていて。……今なら、まだ引き返せたのかもしれない。しかし、私の唇は本心を紡ぎ始めていた。 前へ |次へ |
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