《MUMEI》
決裂
「私は昨日、放課後も学校にいた。大切な用事っていうのも学校で済ますことだったし。そしたら帰りにエミリと会ったんだよ。それだけのことなのに、何でそんな風に言うの?」

意識して穏やかに話すようにしているので、私の口調はいつも柔らかいもののような気がする。だから、今の台詞も軽い調子で言えば印象は違ったのかもしれない。「何でそんな風に言うの! 亜梨沙達酷いよ、エミリなんか知らないって」なんてね。

しかし、今の話し方や声は鋭く冷めていたはずだ。それは本来の私の喋り方で、先生やエミリと話す時はこうだった。それでも、2人は笑ってくれたけれど。

「あんた、自分が何言ってるか分かってんの!?」

彼女等はそうではなかった。絶句した後に、続いた言葉は変わらずに私を糾弾するもので。いつもの顔触れが揃い始めている教室に亜梨沙の声が響いた。途端に何事だと皆がこちらを振り向く。エミリはまだ来ていなかったが、この状況下では良かったのかもしれない。

「どうして? 私、何にも可笑しいこと言ってないと思うんだけど」

「友達が嫌いだって言ってんだから、関わらないよね、普通は」

「何、普通って。そうやって自分達の価値観押し付けるのやめてくれない?」

腹が立つ。無性に苛立って仕方がない。堰を切ったように本音だけが溢れてくる。……もう限界だったのだろうか。

「……前々から何となく思ってたけど、あんた、私等のこと見下してるでしょ」

「……だったら何?」

そこまで言えば、もう何も返す言葉がなかったようで、亜梨沙は醜く顔を歪めた。周りが遠巻きに、何だ何だと囁いているのが分かる。言い負かされた亜梨沙はガタッと乱暴に椅子から立ち上がると教室から出ていってしまった。それを追いかけていく美知達を視界の端に捉える。

「どうしたの? 谷村さん達と何かあった? 大丈夫?」

途中から見ていたのか、私が1人になると躊躇いながらもエミリが寄ってきた。原因は知らないはずだが、心配そうに声をかけてくれた彼女の優しさに胸が痛む。

「別に大したことじゃないし。平気だよ」

それでもハブになるのは決定だろう。いずれこうなるのなら、もっと早く行動していれば良かったのかもしれない、などと内心で自嘲しながら私は自分の席へ戻った。

――でも、私は忘れていた。亜梨沙達がこのまま終わるような輩ではないということを。

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