《MUMEI》
地響きから振動へ
「なんだ?」
二人は足を止めずに振り返った。

 警備隊たちの頭が、山の上にヒョコヒョコ見えている。
どうやら越えるのに少し、てこずっているようだ。
その間だけは銃撃も止み、他に音をたてているものはないはずだ。

「なんなの?」
 ユキナの不安そうな声を聞きながら、ユウゴは走るスピードを緩めた。
そして、音の出所を確かめるように後ろを向いたまま走る。
「ちょ、ユウゴ!前!」
「え……おわ!」
ユウゴは道のへこみに足をとられ、転倒した。
「いってえ」
言いながら、即座に起きあがる。
 ユウゴは起き上がりながら、警備隊がワラワラと群がっている瓦礫の山に不自然な影が出来ていることに気付いた。

昇りかけた太陽に照らされているのは、あの半壊したビル。

重低音はいつの間にか地響きへと変わっていた。

「……おい、まさか」
ア然としながら、ユウゴは視線を上へと向ける。

やはり、間違いない。

「ユウゴ?なにしてんの!早く」
 大声で叫びながら、少し先でユキナはユウゴを待っている。
その場所目掛けて、ユウゴは猛烈なスピードで駆け出した。
「おい、走れ!!」
「え、な、なに?」
「いいから、早く!ダッシュだ!崩れるぞ!」
ユウゴは怒鳴りながら、ユキナの隣を風のように走り抜けた。
「……えぇ!」
ユキナにもわかったのだろう。
彼女は一瞬、後ろを振り返ってから全力でユウゴを追ってきた。


 地響きはやがて大きくなり、ユウゴたちの上にも影が落ちてきた。
「ユウゴ、ビル、傾いてる!」
ユキナが悲鳴に近い声で言う。
ユウゴは「だから、走れって!」と怒鳴り返しながら、後ろの様子を見た。


 さっきまで持ちこたえていたはずのビルは、その巨体をこちらに傾け、今にも崩れそうになっていた。
 こちら側へ山を越えた十人程度の警備隊たちは茫然自失といった雰囲気で皆、一様に上を向いて立ち尽くしている。
あの位置では助からないだろう。
残りの警備隊は、悲鳴や怒鳴り声をあげながら、反対側へと避難し始めていた。
 もともと、かなり背の高いビルだ。
ユウゴたちでさえ、助かるかどうかわからない。

「おい、本気で走れよ!死ぬ気で!」
「それ、マジでシャレになんないって」
 二人は酸欠になるのではというほどの荒い息づかいで、さらにスピードをあげるべく体を前倒しにして走った。

 徐々に、ユウゴたちを覆う影は濃くなり、小さな瓦礫の破片が降り始める。

影の先端まであと僅か。
あそこまで走り抜けば、助かる。
しかし、その寸前で、地響きはズシンという振動に変わった。
同時に「跳べ!!」と言うユウゴの言葉と共に、二人は思いきり前方へと飛び込んだ。

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