《MUMEI》
誘拐――!?
 なんだか、今日は朝からずっとジークの様子がおかしかった。

 妙にティアラを突き放すのだ。

 会って間もない頃もかなり突き放されていたが、その頃とよく似ていた。

 いや、むしろあの頃以上かもしれない。

 それでティアラは、今まで一緒に過ごしてきたのはなんだったの、と無償に悲しくなり、しまいには腹まで立ってきた。

ちっとも目を合わせてくれないし、どんなに一生懸命話しかけても帰ってくる言葉は必ず単語。

 昼食で席についたとき空けられた微妙な空間、さりげない拒絶。

 気になることは、挙げていてはきりがないほどたくさんあったが、決定打は…これだ。

* * *

「ジーク、これお昼ご飯……食べないと体に悪いわよ?」

心配してわざわざ一階から持って上がってきたのに、彼は。

「俺に――近づくな!」

 ジークの本気の瞳に、ティアラの中で朝からくすぶっていた小さな怒りは爆発した。

 私が、何をしたって言うの――!!

 そうして怒髪天を衝いたティアラは、いいかげんにしてと叫んで宿を飛び出したのだ。

* * *

 そんなこんなでティアラは今、あてどもなく外をほっつき歩いているわけだが。

「何か、あったのかしら……」

改めて思い出せば、ジークの様子はあまりにも不自然すぎる。

彼は、他人と関わるのに少々引いているという感じはするが、誰かの親切に対してあんなふうに返す人ではなかったはずだ。

むくむくと心配になたきた。

「帰ろうかしら……」

適当に歩いてきてしまったから帰り道がよく分からないが、人に聞けば夕食までには何とか帰りつけるだろう。

きびすを返しかけた、が。

「きゃっ!!」

 ふいに後ろからはがいじめにされた。

 ――何!?

ここは、通りから少し入った人気のない場所。

大声で助けを求めようとと開けた口も塞がれてしまった。

「ん―――っ!」

 服の袖をめくり上げられ、人目にふれてはいけないはずの腕があらわになり、ティアラは身の毛のよだつ思いをした。

後ろで犯人の話し声が聞こえる。

「見つけ……腕………こいつ……ディ…ウス…」

小声だから、聞き取りにくい。

ティアラは必死で耳をすました。

「………鍵………」

ティアラは驚きに目を瞠った。

まさか…――

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