《MUMEI》 「ナイトメアに憑かれた夢は独特な匂いがするんだよ。ソレを追えばいい」 答えてやり、メリーは鼻を鳴らす 鼻腔を擽る甘ったるいソレを近く感じ、そちらを見やればソコに 少女が一人、漂う様に街中を歩いていた 「居た。あそこ」 その姿を見つけるなりメリーは急降下を始める 降り立ったのは、少女の目の前 突然に降ってきたメリーに、だが少女は何の反応も示さない 「……お兄ちゃん、このヒト誰?」 漸く少女と視線が重なり、首を傾げられた少年は返答に困ってしまっている様で 挙動も不審でメリーの方を見やるばかりだ 「……」 どうにも説明することが面倒なのか、深く溜息を吐きふわり踵を返す その瞬間、メリーの姿が黒い羊のソレへと変わる まるでぬいぐるみの様なメリー その姿に妹は漸くメリーの方を見やった 「……可愛い」 何度も撫でて来る妹、メリーは暫くされるがままで そのまましたい様にさせてやれば、妹の瞼がゆるり閉じ始める そろそろ、いいか 妹が完全に寝入ってしまい、倒れてしまう寸前 メリーはヒトの姿へと戻ると、その身体を受け止めてやっていた 「今日はもう、ゆっくり寝なよ。君もね」 連れて帰ってあげるから、とメリーが少年へと手を差し出せば 少年は随分と素直になりその手を取る せめて今夜だけはこれ以上夢に惑わされることが無いように 少年と妹を両脇に抱え、帰路を進みながら メリーはどうしてかそう思わずには居られない 「……なぁ、これから一体どうなるんだよ?」 暫く進んだ後、徐に少年が呟く声が聞こえメリーは脚を止める どうなる、とはどういう事か 視線を少年へと向けてやれば 「こいつ、ずっとこのままなのか?そしたら、こいつ……」 もしかしたら死んでしまうかもしれない、そう言いたかったのだろうか? 言の葉を続ける事が出来ず口籠ってしまった少年へ メリーは僅かに溜息をつきながら大丈夫を言ってやる 「……そういう事にはならないから。安心しなよ」 「本、当か?」 「出来る限りの事はするつもりだから。僕を信じて」 何故、ヒトにこれ程まで深入りしようとしているのだろうか? メリー自身にもその実分からず だが今は考えても仕方がない、と考える事を早々に止め身を翻した 「じゃあね。お休み」 少年の頭の上で手を弾ませてやり、メリーはその場を後に 外へと出るなり、そこで知った顔に遭遇した 「……また、なんか用?」 ソコに居たのは、以前にもメリーに忠告したあの男 あからさまに嫌な顔をして見せれば 男は相変わらずだと溜息を一つ 「たまには違った顔が出来ないのか?お前は」 「……出来ないよ。悪いけど」 愛想など振りまいた処で何の得もないだろうと返せば、男はまた溜息 やれやれと肩を竦めて見せ、だがすぐにメリーを正面から見据えてくる 「……何?」 何か言いたげな相手へメリーが問うてやれば、だが相手は何を言う事もなく メリーの頭に手を置くと子供にしてやるかのように撫で始めた 「な、何?」 行き成りのソレに、つい手を払ってやれば 相手は肩を僅かに揺らし、踵を返す 結局、何をしに来たのだろうか? 解らず怪訝な顔をしたと同時、相手が首だけを振り向かせ 「……余り、気張るなよ」 労う様な言の葉を向け、その場を後にした ゆるり消えていくその背を暫く眺め、メリーも身を翻す 特に行く当てなどなく、街中をぶらつく事に 夜中だというのに人の往来の多い表通り その人の流れを唯何となく眺めながら歩いていると 「また、会ったな。夢魔」 明らかに人とは違う臭いを感じ そちらを見やってみた瞬間、その顔が息が触れそうな程すぐ近くにあった 「人の世というのは実に愉快だな。そこら中に悪夢が溢れかえっている」 口元を厭らしい笑みに歪ませながら、ナイトメアは行き交うヒトの群れを眺め見る そうは思わないか、と同じ様に見てみる様促されたが メリーは見る事はせずナイトメアの方を見やったままだ 「……あの子の夢に住み着いて、何するつもり?」 その真意を訪ねてやれば、ナイトメアは笑う声に肩を揺らし だが何を言う事もせず身を翻す 「……あの子供の夢は、私達が住むのにはちょうどいい悪夢だからな」 「それだけ?」 前へ |次へ |
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