《MUMEI》 女性は耳元を手で多い、何かを呟く 日和の表情が僅かに険しいソレに変わったのが直後 ひらり着物の袖を靡かせ踵を返した 「播磨。私はずっと、待っているから」 態々振り返り呟いた言葉 何を、待つというのだろう 解る筈もなく花魁の方を見やるが、その返答はなく そのまま去っていく後ろ姿を唯見送るしかない 「……帰ろ」 何時までもここに居ても仕方がないと、播磨も身を翻し帰路に着く 刺し抜かれてしまった脇腹が痛い 一度意識してしまえば、その痛みは更に増していき 播磨はその場に座りこんでしまう 「志鶴君、大丈夫!?」 後ろを付いて歩いていたらしい相手が駆け寄り播磨の身体を支える その手を借り立ち上がると、また何とか歩き出す 「……なんで、こんな事になってんだろ」 放置されたままの姉の死体を横目見、小さく震える声で呟く 何故、どうして それは播磨も問い質してやりたい事だった 「すまん。気の利いた事何も言えんで」 苦く笑ってやれば相手は緩々と首を振り 大方、泣き出してしまっているのだろう、肩を僅かに震わせながら先を歩き出す 「……だから、夜って嫌いなんだよ。俺」 独り言の様に呟いたソレに播磨は何を答えてやる事もしなかったが 代わりに頭に手を置き髪を梳いてやる 「自分、今日は本当に早う帰りィ」 色々と考えるのは後にしろ、と帰路へと相手の背を押しやる 相手は何か言おうと口を僅かに開きはするがすぐに口を噤み 小さく頷くと歩き始めた ちゃんと帰ってくれればいいが 暫くその後ろ姿を見送り、播磨も帰路に着く 「こんなにも良い風やのに」 その心地よさに少しも浸れない 色々と危惧する事が多いせいか 自分も年を取ったものだと、播磨は髪を掻いて乱しながら脚を早める すっかり乱れてしまった髪をまるで撫でる様に風は穏やかに吹き 播磨はその風の中に混じる僅かな死臭に鼻を鳴らし、顔を顰めたのだった…… 前へ |次へ |
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