《MUMEI》
〜「あの日」--ソラの回想1〜
午前の授業の終わりを告げるチャイムを聞き流しながら、俺は帰路についた。

今日は職員会議だとかなんとかで、授業は午前だけだ。

(帰ったら、何をしよう… とりあえず、さっさと課題を済ませて…)


 「ソーラっ!」


幼馴染のユリが、俺の思考を遮った。


 「下ばっか向いて… そんなんじゃ、いいコトないよ?」


ユリはいつもこうだった。何かにつけて俺にかまってくる…

ユリにしてみれば「ごく普通の付き合い」だそうだが、俺はどうも人に構われるのが苦手で、

彼女といると何か気が落ち着かなかった。


 「何だよぉ… ちょっと考え事してただけだよ」

 「ふぅん… 何を考えてたの?」


彼女は、いささか女子のそれとは認め難いようなデリカシーに欠ける質問を投げかけながら、ぴょこんと首を傾げる。

こんなふうな「天然」でもあり、趣味は花の鑑賞、という… よくわからない奴だ。

もう十年以上の付き合いだが、未だに彼女の思考は読めない。


 「今日、何しようかなー…って。ただ、それだけだよ。」

 「そうなんだ。じゃあ、一緒に今日の予定を立てよっか!」


 「おいおい、俺はまず課題を済ませ…」

 「じゃあ、一緒に課題やろっか! 生物学なら私に任せて!」

 「俺、物理選択なんだけどなぁ… まぁ、いっか…」


そんなこんなで、今日はユリと一緒にうちで勉強、ということで俺の予定は決まった。

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