《MUMEI》
心配
「お母さん、何で呼ばれたのかなぁ?」

今宵は加奈子の出て行ったドアを見つめながら首を傾げた。

「検査の結果だよ、たぶん。こーが寝てる間にしたから」

「そーなの?知らなかった」

「そりゃそうだよ。ずっと寝てたんだから」

うーん、と唸る今宵に歩雪はあっけからんと答える。

そっか、と今宵は納得するように声を漏らした。

じゃあすぐ退院できるってことだよね。

検査の結果だって異常無しに決まってるし。

「でもよかった。こーが無事で」

「え?」

「3日間も目を覚まさないから、どうなるかと思った」

歩雪が辛そうに顔を歪めて笑み浮かべるのを見て、今宵は戸惑った。

こんなに心配させてたんだ・・・・・・。

歩雪くんにも、お母さんにも。

先程は気がつかなかったが、きっと母の顔には看病で無理をした疲れが見えているだろう。

そう思うと、心は重く沈んだ。

「ごめんね。心配させた上に迷惑かけて・・・・・・」

「何言ってるの、こー。心配はしたけど迷惑なんかしてない。そんなの付きっきりで傍にいた加奈子さんにも失礼だよ」

今宵の言葉に歩雪は鋭く返した。

心配だけでずっと傍にいたのに、変な誤解をもたれるのは嫌だった。

この3日間は今宵の無事だけを祈って過ごしてきたのだから。

「・・・ありがと、歩雪くん・・・・・・」

今宵の口から辛うじて出たのはこの言葉だった。

こんなに自分のことを思ってくれる歩雪や母を思うと、胸が一杯になる。

迷惑なわけがないと怒ってくれる人なんてそういることはない。

目尻に涙を浮かべて微笑んでいる今宵を見て、歩雪はため息をついた。

「明後日からは学校だし、早く良くなってよ」

「あ、そっか。もう始まっちゃうもんね」

「また煩くなる」

うんざりとしながらもどこか楽しそうな歩雪を見て、今宵は何かを思い立った。

「私が入院してること、琴吹くん達には言った?」

「言ってないけど?」

「じゃあ退院するまで言わないで。心配かけちゃうし」

「別にいいと思うけどね。それぐらいさせたって」

歩雪は呆れたようにため息をつく。

今宵はそんな歩雪を見てもう一度強く言いつけるように言う。

「いい?絶対だからね!?」

「わかったよ・・・・・・。でもあの2人に詰め寄られたら自信ない」

「あ、それは分かるかも」

2人は顔を見合わせると、どちらからともなく笑い始めた。




「そんなことって・・・・・・。今宵・・・・っ」

廊下で今宵と歩雪の笑い声を聞いていた加奈子は、嗚咽混じりに呟いた。

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