《MUMEI》 「播磨 志鶴様、ですね?私達と共に来て頂けますか?」 唐突なその申し出を戴いたのは丁度、朝食時だった 行き成りすぎるソレに、播磨はつい食べる手を止め あからさまに怪訝な表情をその連中へと向ける 「……自分ら、何?」 突然に家に上がり込んできたその連中に尋ねてやれば その中の一人がスッと前に出る 以前に相対した、あの女 相も変わらず播磨へは蔑む様な視線を向けるばかりだ 「……またか。で?何?」 「あの方に、会っていただきたいのです」 「あの方?誰?」 大体の予想は吐くが敢えてしらを切る 今はまだ関わってはいけない、何故かそんな気がして 播磨は穏やかな笑みを浮かべながら、やんわりとソレを拒絶していた 「……何故、アナタはあの方を認めようとはしてくれないのですか?」 「だから、何の事やねん」 いい加減、何の進展のないこのやり取りに飽き 播磨は苛立ちも露わに端を置くと立ち上がる 「全員帰れや。鬱陶しい」 態々表戸を開け放ってやり、帰る様に促してやれば 喉元に、素早く担当の刃先が向けられた 苛立ちを覚えたのは播磨も同様、等々武力行使に打って出たらしい 「物騒なもん出さんときィや。本当、自分ら一体何なん?」 何者で、何が目的なのか 改めて問うては見るがやはり返答はない これ以上のやり取りは全く持って無意味だ、と播磨は溜息を一つ 仕方なく連中に付いて行くことに 「日和様。播磨様をお連れ致しました」 連れて逝かされたソコは遊郭、その最上階 煌びやかな装飾が施されている襖を開ければソコに 日和が座っていた 今まで見た事のない、人形の様に表情無く座っているその姿 播磨の姿を見ても何の反応も示さない 「姫さん?」 様子が、明らかにおかしい どうしたのだろう、と顔を覗き込んで見るがやはり何尾反応もなかった 一体どういう状況なのか 連中へと見て直り、状況説明を求めてみれば 「……今、夜がこの方を支配してしまっているんです」 解らない説明が、寄越された 理解できないでいるそれが露骨に表情に出てしまって居たのか 相手は態々溜息を吐き 「……見ていただいた方が、早いですね」 言うや否や、相手は徐に日和の着物の袷に手を伸ばす 何をするつもりかを問うてやれば 相手が答えるよりも先にその全てが顕わに 「……何なん、コレ」 そこで播磨が見たのは 日和の全身を覆う、ドロドロとした何かだった 改めてこれが何なのかを相手に問い質して見れば 「……これが、(夜)です。皆が毎日の様に待ち望んでいる夜」 これが、こんなおどろおどろしいものが(夜)だというのか 到底そう見る事など播磨には出来ず 怪訝な表情で相手を見やる 「この方を覆うのは常に夜闇。この夜に、染まってみますか?播磨様」 誘う様に差し出される手 だがその手を取る事を播磨はせず 相手から日和の着物を奪う事をし、肩へとかけてやった 「……姫さん、俺が解る?」 顔を覗き込み、頬を軽く打つ 日和からの反応は無く、だが播磨へゆるり手を伸ばす 「……播磨。私はあなたがずっと欲しかった」 細く、華奢な指に引き寄せられ、播磨は日和の胸元へと抱き込まれた その手が小刻みに震えている事に気付き 「……何が、怖い?」 囁く様な、宥める様な声で問うてやる 瞬間、日和の目が僅かに見開き播磨を見やった 「私は、何も怖くなんて……」 「ない?本当に?」 幼いころは酷く怖がりだったのに、と播磨 子供にしてやる様に頭をなでてやれば 日和は照れてしまったのか、僅かに顔を赤らめ、播磨の手を止める 「……播磨。あなたにとって私は、あの頃の子供のままなのですか?」 「は?」 「私は、あのころとは違う。もう、違ってしまっている。何もかもが」 そのまま播磨の手を払いのけ、また着物を肌蹴させる 全てを顕わに日和は立ち上がり、襖を開くとソコに立った 「……夜さこい。夜さ、こい」 一心に夜を呼ぶ声 その声に反応するかの様に日和を覆っている黒くどろりとした何かが外へと向かい流れ始める 一体あれは何なのだろうか 相手はあれを(夜)だといった ならばその(夜)とは一体何なのか 目の前で見ている筈なのだが全く分からない 「……夜は、好き。ヒトがその全てを顕わに出来るから」 そうは思わないかとの日和へ 前へ |次へ |
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