《MUMEI》
救済。
痛む身体に鞭打ってベッドから転げ落ち、這いつくばるようにミクちゃんに近づく。
頭を抱え、瞳はグラグラと揺れている。
「思い……出した……の」
「……え?」
揺れていた瞳の焦点は僕の瞳に定まっていく。
「全部……思い出したの……」
「全部……?それって……まさか……」
もし、小鳥遊さんに記憶を操作する力も存在していたら。
それを今、小鳥遊は開放したとしたら。
まさか……2年前のことを……。
「ミクちゃん、落ち着いて!深呼吸するんだ」
ミクちゃんにとって、嫌な思い出しかないはずだ。
だから思い出さないようにしていたのに。
思い出してしまったなんて……。
それじゃあ僕らの2年間はなんだったんだ……!
「みんなが……守ってくれてたんだ……」
涙を流した。
「みんな……あんな危ない目に……」
「思い出しちゃダメだ!」
「私は……私は……」
「ミクちゃん!!」
俯いていた顔を上げ、僕を見る。
ミクちゃんの顔は紅潮していた。
「……ッ!大丈夫!?まさか記憶が戻って身体に負担を?」
「薫くん」
「え?」
「全部……思い出したよ。2年前のこと」
落ち……着いてる……?
「悪いことも……良いことも……思い出した。薫くん」
ミクちゃんはいきなり、ニコッと笑いだした。
「私達……キスしちゃってたんだね」
「なあっ!?」
ええええ!?それって……え?あ、ああ!!
誘拐される前の……アレ!?
「あ、あれは……その!」
「お風呂も覗きに来たしね……響介くんと」
「そ、そんなことも思い出したの!?」
同時に僕も思い出す。
あの日の事を……。
改めて、ミクちゃんのことを好きになった、あの日……。
「不思議なんだ。あの日のことを思い出したのに……ちっとも怖くない。それどころか、少し嬉しいんだ」
「嬉しい……?」
ミクちゃんが嬉しくなるような事が、あったのだろうか。
「ごめんね。2年間もツラい想いをさせて……。だから、ちゃんと言うね」
涙に光が反射して目立つ。でも、その光は笑顔を更に引き立てる。
「助けてくれて、ありがとう」
その瞬間、この2年間抱えていた靄が消えた。
お礼を言われたかったわけじゃないけど……。
その言葉で、僕はようやく救われた気がした。
「私も、薫くんの事が大好きだよ」
ミクちゃんは更に付け加えた。
…………………………………………………………………………。
「え?」

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