《MUMEI》

「どわああぁぁぁぁぁああぁぁぁ!」

上下左右が不確かな空間で、私は一頻り叫び続けていた。

周りにはサウザーもショウ兄もアイも見当たらない。

何が起こっているか理解しきれていない、というのが現在の心情として最も適当な表現だろう。

取り敢えずは、希望薄だが掴むことが出来そうな場所がないか手をあちらこちらに振り回してみたりした。

「……………ですよね。」

見た通り、遮断物はないらしかった。

そろそろ頭も冴えてきた頃に、ふと、この光景をいつか見たことを思い出した。

「此処は…初めてサウザーと会った場所だ…!」

落ち着いて見渡すと、上下左右は不安定だが不確かではないし、見覚えが皆無な訳でもない。

思い返すと、確かに此処は見知らぬ土地では決してない、が。

「アイツの説明、荒すぎでしょ…!」

何らかの流れに流されながら、私は矢吹慶一郎に怒りを覚えていた。

急遽、送信元不明のメッセージが例によって指輪から開かれるメニューに表示され、恐る恐る読んだら、言う通りにしろ、の一言。

あんなもの、見たら誰だって恐怖する筈だ。

続いて、馴染んできたらオリガルト前の荒野に一人で佇め、という強迫染みている文。

送り主の正体に気付いた原因は、自分で気付くのも難だが、私の呼び方である。

私のことを、お嬢ちゃん、なんて馬鹿にした風に呼ぶのは矢吹慶一郎くらいしかいないからだ。

それ以外の情報は皆無。そりゃあ怯えもする。
しかし、今はショウ兄の身を按じるのが良策な気がする。

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