《MUMEI》
秘密
唇に、何かが
あたる感触がする。

それは柔らかく、
冷たかった。

...何?

薄く目を開く。

すると、目の前に
ドアップの
宏の顔があった。

「!?」

唇を塞がれているので
言葉が発せない。

最初の軽い口付けから
一変して、
深く、お互いを
探るようなキスになる。

「んっ...んっ!」

どうして
こんな状況なのか。

私は一人でオナニーを
していたはずだ。

...もしかして、
気持ち良くて気絶
しちゃったのかな...

...あれ、そう言えば
今、私に口付けている
のはどっちの宏なの?

謎だらけのこの状況。

「んっんっ!!宏...宏!!」

ドンっと
その肩を押す。

「っはぁ...はぁ...」

「な なにす...」

「浮気しただろ」

「...え?」

「さっきだよ、素面の“宏”と」

...素面の宏?

「だーかーらー、俺であって俺じゃないもう一つの人格の事だっつの」

「ど どういう事...?」

「え、怜子ちゃん...もしかして君、気づいてねぇの?」

「宏の性格が朝と夜で変わるのは分かるよ」

「ぶはっ、違うよ。俺達は酒で酔うと入れ変わるんだ」

...お酒?

そう言えば、最初に
宏とセックスした時
宏は酔っていた。

次にセックスした時も
お酒臭かった気がする。

...なるほど。
二重人格のカラクリは
そういう事か。

「で、怜子ちゃんさ素面の宏とキスしただろ」

「...確かにしたけど、浮気じゃないじゃん」

私達は、付き合って
ないのだから。

「は?普通に浮気だろ。俺、告白の返事はされてねぇけど、セックスしたよな?」

「セックスしたからって、付き合ってる訳じゃ...」

「...じゃあ何?セフレだとでも言うのか?」

「...そういう訳じゃ...」

「そういう事だろ」

「...。」

何も言えない。
セックスするだけの仲
って、セフレに
なるけど、宏とは
もっと上の
関係になりたい。

...と言うよりも
セフレなんて言葉で
片す関係でいたくない。

「...宏...」

じっと見つめる。

「...んな甘えた声出してさ、俺にどうしろと?」

「...分かんないよ。宏との関係は、セフレなんて言葉を使いたくない。でも、私には彼氏がいるの。そうそう、裏切れないよ」

「...だよな、分かった。じゃあ一週間待ってやる。それで答えを出してくれ」

「...うん」

ちゅっ

宏が私にふいうちの
キスをする。

「っ」

「俺は選ばれなくても...
諦めないからな」

そう告げてくる。

ドキン、ドキン。

胸が高鳴る。

どうしよう。
灯呉の事も好きなのに。

私ってば、かなり宏に
ハマっちゃってる。

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