《MUMEI》

ロスタイムに入ってから、五分程度の時間が経とうとしていた。

「いつまでここに留めさせるつもりだ?…ずっとこのままってことはないだろうが……。」

旋毛の辺りをポリポリと掻きながら、相も変わらず一定のスピードでどちらとも分からない方向へ流れていた。

通常は一分も居ない空間にこうも一人で居ると、余計に長く感じるし、いつもと違うところに意識が向くものである。

何気無く視界を埋め尽くしている、鬱陶しい程のライトブルーの文字の羅列。所々に混ざる暗めの桃色の文字。

何処までも続いているようなその文字は、何を意味しているのか。

然程速度は出ていないので、少しなら文字を読むことが出来た。解らないのはその後だ。

全てが英語で書かれている為、意味が分からないものが多数含まれている。

「ST…R……駄目だ、全然わかんねぇ。」

文やプログラムのような物はさっぱりだったが、時々出てくる見覚えのある文字は理解出来た。

「MARY…メアリー、か。隣はATT…ACK、だからアタック…。」

意味は分からないが、なんとなく暇潰し程度に読んでいた、その時だった。


「よう。」


「!」

背後からの、唐突な呼び掛けだった。

見知らぬ顔だが、相手の方は俺に用があるらしい。まぁ、そうだろうが。

こんな状況下、大した驚きでもなかったが、一応聞いてみた。

「誰だ、お前。」

「隙だらけなお前をある場所に届ける案内人みたいな者だ。」

皮肉もそうだが、この案内人とやらからは俺への嫌悪感がひしひしと伝わってきた。

覚悟の上だが、またどうも面倒臭そうなことに首を突っ込んでしまったな、とただ嘆息するばかりだ。

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