《MUMEI》
乱れる恋
ピカッ

「きゃぁっ!!」

灯呉にしがみつく。

「...怜子、大丈夫だ。俺がいる」

そう言ってカバンから
ヘッドフォンを
取り出した。

「はい、これ付ければ何も聞こえないから」

灯呉が私に
ヘッドフォンを付ける。

...あ、ホントだ。
音量が大きいからか、
全く雷の音が
聞こえて来ない。

「...ありがとう」

微笑みかけると、
灯呉の顔が赤くなる。

「...可愛すぎ」

灯呉の口が動く。
でもその声は、
ヘッドフォンをしている
私の耳には届かず。

「...ん?ごめん、何も聞こえない」

「聞こえなくていいんだよ」

ぼそっと呟かれた
その声も、もちろん
私には届かなかった。

目の前には灯呉、
耳にはヘッドフォンで
完全に安心しきる私。

でもふと、昨日
言われた宏からの
忠告を思い出す。

“言っておくけど、怜子ちゃんが選ぶのは怜子ちゃんの彼氏と俺だけじゃない。俺と俺、つまり素面の俺と酔った俺のどちらかも選ぶんだからな”

...私に、
選べるのかな。

皆が皆、いい人すぎて
私には選べないよ。

灯呉の事、すごく大事。
今みたいに私の事を
大切に思ってくれてるし
何よりも、私が
灯呉の事を好きなのだ。

...だけど。

宏は...何て言うか、
私を夢中にさせる。
目が離せなくて、
放っておけなくて...。

素面の時の宏は
よく分からないけれど
どことなく惹かれる。
すごい優しくて、
思いやりのある人。

...あれ、待って。
考えてみたら
私は別に素面の宏から
告白された訳でも
何でもないじゃない。

って事は、
まずまず私に素面の宏を
選ぶ権利がない。

...やっぱり、
選ぶのは二人じゃない。

昨日の宏は、
どういう意味で
そう言ったのだろう。

真意が掴めない。

そんな事を長々と
考えていたら、
灯呉が私の耳から
ヘッドフォンを
取り外した。

「...?」

「雷、止まったよ」

「...あ」

もう空は、光で満ち溢れ
太陽が出ていた。

「怜子、何でこんな早い時間に来たんだ?」

「...勉強しようと思って...」

「...そっか。別に、家に居づらいとかじゃないんだな?」

灯呉には、居候で
お父さんの部下が
家に来たと言ってある。

「...違うよ」

ほっとした様子の灯呉。

そっか、そういう
心配させちゃったのか。

「何かあったらすぐ言えよな」

「分かった」

優しい、優しい灯呉。


私はこの人を、


裏切っている。

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