《MUMEI》
今藤凛音の夢
夢というものはなんとも便利な物だ。空を飛ぶのも、水の上を歩くのも、自由なのだから。

私の友人はそう言っていた。
私はそれを否定する。

私は、夢の中で自由に動けたことがない。大抵の人がそうであるように、起きた後、夢であることを理解する。

空を飛んでも、水の上を歩いても。
夢を見ている間はそれが当然のように感じられる、のかもしれない。

どちらにしても、私は夢の内容を全く覚えていないのだから。

夢を見るのは楽しい。
でも、見た夢は覚えていない。

何か楽しい夢を見た気がする、程度の認識だ。

そんな私が唯一覚えている、とても怖かった夢の話をしようと思う。












おとうさん。

「なんだ?」

私達はどこに向かっているの?

「お化け屋敷だよ」

私は車に乗っていて、今はいない父の背中を見ている。父のとなりには母がいて、私の隣には姉がいた。私には二人の姉がいるのだけれど、そこにいるのは二番目の姉だけ。長女はどこにもいなかった。

ねぇ、おかあさん。

「なぁに?」

私、怖いのは嫌だよ

「大丈夫。怖くないわ」

いつの間にやら車はなくなって、私は母の手をとって歩いていた。
暗い暗い、トンネル。
どうやらここがお化け屋敷らしい。トンネルなのに屋敷とは、なんとも変な話である。
別に雨が降っているわけでもなかったけれど、私は寒くて、泣きたかった。

「なんであんなにくるまがたくさんあるの?」

姉が問う。
父は不思議そうに車を一台止めた。

「何故、車で通っているのですか?」

「ここは車で通るお化け屋敷なのさ。ひひひ、怖いだろう。怖いだろう」

男はひひひと笑い続け、そのまま車を走らせた。

明らかに正気ではない。

「あら、ここは車で通るためのお化け屋敷なのね」

「知らなかったなぁ。車をとってこよう」

ねぇ、おかあさん、おとうさん。
もうやめようよ、帰ろうよ。

「りんね、たのしみだねぇ」

姉はひひひと笑っていた。

私がいくら喚こうと、夢はどんどん進んでいく。

「くるまはいいねぇ、ひひひ」

よくないよ、かえろうよ

「りんねはなきむし、なきむしけむし、ひひひ、いひひひひひ」

「こら、凛音をからかうのはやめなさい」

「そうだぞ。ひひ。それにしても暗くて運転しにくいなぁ。ひひひ」

「あら、本当ねぇ、いひ」

3人はひひひと笑い続けた。

「あら、あんなところに人がたっているわ」

「ああ、本当だなぁ」

なにいってるの、いないよ

「りんねには見えないんだねぇひひ」

「凛音だけちがうからかしらねぇ、うひひ」

ねぇ、ねぇ、さんにんとも、おかしいよ

「ひひひ、人がいっぱいいるなぁ」

「凛音には誰が見えるの?」

わたし?
わたしにはね、あそこにおとこのひとがみえるの。あたまがあかいの。

「あらあら、そんなのみえるぅ?」

「見えないわねぇ」

「見えねぇなぁ」

なんで?そこにいるじゃん

「ねぇ、りんね、ひひ」

なに、おねえちゃん

「このトンネルね、あのおとこをさいしょにみたにんげんね、しんじゃうんだよ、ひひ、ひひひ、りんね、しんじゃうね、かわいそうに、かわいそうに、ひひひひひひひ」

「あらあら、凛音死んでしまうのねひひひひひひひ」

「それは嬉しいなぁひひひひひ」

そのあと、私は何故か無言で車に乗っていた。3人はひひひひひひひと笑い続け、家に着いた。

家に着き、やはりひひひと笑う3人をおいて、私は長女の部屋へと行った。

おねえちゃん

「何?」

おかあさんたちがおかしいの

「あららー、なんか憑いてきちゃってるね。貴方はもう寝てなさい」

うん、わかった。おやすみなさい

「おやすみ、きっとこれは夢だからね」






ベッドに入り、意識が消えた。

そして、目が覚めた時、あれが夢か現実か、区別がつかなかった。

母に聞いても、父に聞いても、次女に聞いても、あの時のことは知らないという。

長女は、笑っていう。






「大丈夫。きっと全て夢よ」

「」



作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫