《MUMEI》
後悔
「何がしたいんだろう……」

怒涛の4時間目が終わり、私は弁当を持って屋上を訪れていた。亜梨沙達と仲違いしてから昼休みは1人で過ごしていたが(たまにエミリと一緒に過ごすが、基本的に私からは誰にも近寄らない)、ここに来るのは昼食を済ませてからが常だった。

だから、私は今日初めて弁当持参でここへやって来た。コンクリートの上に弁当を広げながら、私は呟かずにはいられなかった。

答えに何となく予測はついていて、恐らくそれは外れてはいないだろう。亜梨沙達は、私が気に入らないのだ。それならそれで良い。私も彼女等とは馬が合わないのだから、それはどうしようもないことだ。

だからと言っては何だが、無視されようと、どんなに酷い陰口を叩かれようと、一向に構わなかった。たとえ殴られようが、蹴られようが涼しい顔をしている自信さえある。

……だから。だから、先生は巻き込んで欲しくなかった。それだけは、やめて欲しかったのに。

亜梨沙達は巧妙だ。私が嫌だと思うことを的確に読み、突いてきたのだ。その瞬間、私は冷静さを失ってしまった。

「…………来る、かな……」

白米やおかずの唐揚げ、卵焼きと箸を進めていたが、それはいつしか止まっていた。代わりに、空を仰ぐ。どんよりとした雨曇りの下で、滑り落ちた声は一体自分のどこから出たのだろうと身震いするほど弱々しかった。

本当は、分かっている。先生は、ここへは来ない。来るはずない。来れるはず、ない。(誤解だろうと何だろうと)恋愛事情には敏感かつ興味のある年代だ、好奇心から屋上を覗きにくる奴もいるかもしれない。そうなった時に、亜梨沙が言った通り2人きりでいる訳にはいかないのだ。そんなこと、私だって痛いほど理解している。――それなのに。

それなのに、今、どうして私は先生を待っているのだろう。この期に及んで、来て欲しいと切に願っているのだろう。

困らせたくなかったし、迷惑だってかけたくはなかった。だから、私は4時間目、手酷く毒を吐いた。

結果、亜梨沙達も黙り込んだしクラスメイト達だって彼女等の出まかせだと納得したようだった。しかし、私を取り巻いたのは安堵よりも、もっともっと大きな後悔だったのだ。本当にどうかしている。

有り得ない、と嘲笑ったのは紛れもなく自分自身だ。そう、先に言ったのは私の方だ。それにも関わらず、先生の口から同じ言葉が出た瞬間、痛む胸を誤魔化すことはどうしても出来なかった。

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